第1章2節 魔法少女、戦います
第1章17話 ありすと魔法少女 1. フレンドになろう!
* * * * *
現実世界に現れたモンスターと戦い、あわやというところでホーリー・ベルに助けられ、そして彼女とフレンドとなった。
たったこれだけの出来事しか起きていないが、一つ一つが中々『濃い』ものであった。
そんな怒涛の一日であったが、まだまだ終わらない。
”……おや?”
ジュジュからのフレンド申請を受け付けてから一時間くらい経った頃――話が終わった後、ありすは宿題の山と格闘している。授業が色々と中断されたことと、やはり割りと長時間授業を抜けていたことが問題となったため、少し多めの宿題を出されたらしい――視界の端のアイコンがぴかぴかと点滅している。
点滅しているのはフレンドアイコンだ。ということは……。
特に迷いもせずに私はそのアイコンをクリックする。更にもう一段階ウィンドウが開き、そこにマイク型のアイコンがあり点滅している。
相変わらず詳細なアイコンの説明がないので正確なところはわからないが、まぁマイク型のアイコンということは会話機能――要するに『チャット』なのだろう。
マイクアイコンをクリックすると、
「え、何?」
ありすの戸惑う声が聞こえる。私も戸惑っている。
先ほどまでありすの部屋にいた私たちだが、アイコンをクリックした瞬間に相変わらず殺風景な我らがマイルームへとワープしていたのだ。
”ありす、何が起こるかわからない。変身しよう”
「ん、わかった」
チャットのお誘いではなかった? 明らかにマイクの形をしていたが……まぁこのクソゲーのクソUIだと、何が起こるか本当にわからない。クソすぎてダメだという意味で、この『ゲーム』の運営は信頼できる――信頼ってなんだろう、と考えずにはいられない。
ありすがアリスになると共に、何もなかった壁に大きなウィンドウ……いや、これは壁面に埋め込まれたディスプレイ? のようなものが現れる。
『はろー! 聞こえる? 見える?』
ディスプレイが少し乱れた後、映像が映った。
そこにいたのは、私たちの知る姿――ホーリー・ベルであった。
「ホーリー・ベルか。
……ああ、なるほど、チャットってわけだな」
アリスもすぐに事態を飲み込む。
……私たちが知り合って一週間、ほとんどの余暇を『ゲーム』に費やしているため気付きにくかったが、ありすは結構なゲーム好きらしい。PCを使ってのゲームは(ありすが自分用のPCを持っていないせいもあるが)やっていないが、携帯ゲーム機やテレビと接続する据え置きゲーム機は何種類もあった。私よりもゲーム的なことにはきっと詳しいだろう。
『あたしもチャット初めてだわ。こんな感じなのねー』
ディスプレイの向こう側のホーリー・ベルが興味深そうにこちらを見ている。
あちら側も普段のベースとは違う部屋にいるようだが、私たちの方とは異なり普通の部屋に見える。真っ白で何もない殺風景な部屋ではなく、ソファや机があるのがわかる。
『……そっち、随分寂しい部屋じゃない?』
ホーリー・ベルからもそう指摘される。
”そうなんだよね……まぁ必要最低限の機能は揃ってると思うからいいんだけど……”
『そうなの? マイルーム設定、ちゃんとしてる?』
”……そんなのあるんだ?”
その後、しばらくはマイルームの設定を変える方法やチャット設定についての色々についてレクチャーを受けて時間を過ごした。
この『ゲーム』、説明不足にも程があると思っていたが、どうも私以外のプレイヤー――ホーリー・ベルたち以外のプレイヤーもいるのかはわからないが――に対してはそこまで不親切ではないらしい。と言っても、ホーリー・ベル自身が諸々の設定やら説明を読んでいるわけではなく、プレイヤーの方であるジュジュがやっているそうだが。
マイルームの変更はおいおいしていくこととしよう。取り急ぎ設定しておいた方が良さそうなのは、『アイテムボックス』という機能かな。余ったアイテムやジェムを保管しておくことが出来る機能だ。
『――それにしても、本当に何にも知らないんだねー……ラビっちって、取説読まないタイプ?』
”いや……結構マニュアル読んだはずなんだけど……”
自分で言うのも何だが、私は間違いなくマニュアルはかなり読み込んでから取り組む派だ。むしろ、常にマニュアル片手に機械とかは操作する。流石にテレビのチャンネルを変えたりとかまではマニュアル読まないけれど。
断言するが、マイルーム周りに関して、加えてフレンド関連についての説明は私が見た範囲ではなかった。今見ると確かにあるのだが……。
ところどころ相変わらず読めない文字で記載されている箇所もあったりするし、私のせいではない……と思う。
『そういえば、ちょっと不思議に思ってたんだけど』
ホーリー・ベルが続ける。
『ラビっちって、普通にあたしたちと会話できるんだね』
「……それって不思議なことなのか?」
アリスが不思議そうに首を傾げる。
「会話できなければ、そもそもユニットになることも出来なかったし、クエスト中の意思疎通もできないだろう?」
『ああ、そういうことじゃなくて……。
ジュジュ、出てきて』
ホーリー・ベルの呼びかけに応えて、彼女の胸元から小さな白いネズミ――彼女の使い魔『ジュジュ』が姿を現す。
”……ジュジュ”
『今、ジュジュが何て言ったかわかった?』
”いや……”
私にはネズミの鳴き声っぽいものが聞こえただけだ。
アリスの方を見ると、彼女も首を横に振った。つまりは、ジュジュの言葉は聞こえないということだ。
『ね? あたしにはジュジュが何て言ってるかわかるんだけど、他の人には鳴き声にしか聞こえないみたいなんだよね。
でも、ラビっちの声はあたしにも普通に通じてるし』
”ああ、成程。そういうことね”
今まで疑問にも思わなかった――いや、思うべきだったのだろうが、私がこの世界に来た経緯からして常識では考えられない異常なことだったのだ。『言葉が通じるか』なんてこと、疑問にも思わなかった。最初に出会ったありすには普通に通じていたし、現実世界においても美奈子さんとも普通に会話できていたし。
けれどもジュジュは違うようだ。使い魔とユニット間での意思疎通が出来れば基本的には問題はないのであろうが……。
『ねージュジュ、いちいち翻訳するのめんどいんだけどー?』
”ジュ……”
『……はー……しょうがないか』
ジュジュが何て言ったかはわからないが、おおよその見当はつく。ホーリー・ベルには面倒ではあるが、ジュジュの発言は都度翻訳してもらうしかないだろう。
”さて、改めて――今更だけど、自己紹介しておこうか”
チャットを始めるなり私たちへの説明になってしまったので話が進まなかったが、ひと段落したことだし話を進めようと仕切りなおす。
それに、アラクニドとの戦いの時はバタバタしてて落ち着けなかったし、まずは自己紹介からだ。
”私はラビ。ちょっと色々な事情があって、アリスの使い魔をしている”
流石にいきなり前世――こことよく似た異世界から転生してきて云々という説明は省いた。いずれするかもしれないが、まだ知り合ったばかりで転生云々など言い出したら、こちらの正気を疑われかねない。
……そういえば、ありすにもまだ私が異世界からやってきたということは伝えてなかった気がする。何か『ゲーム』とかあるし、『そういうものなんだ』で納得されそうだな……。
「ふむ。ではオレだ。
オレはアリス。使い魔殿――ラビのユニットだ」
続いてアリスが改めて名乗る。
普段の小柄な少女の姿からは想像も出来ない、大人の女性の姿で、見た目も態度も実に堂々たるものだ。
『じゃあ、次はこっちね。
改めまして――』
と、一呼吸置いてから、
『闇夜に響く聖なる鐘の音――魔法少女ホーリー・ベル!!』
バッチリとポーズまで決めて名乗りを上げる。
――そうだよね、こっちの方が『魔法少女』っぽいよね。
「お、おう……」
が、意外にもアリスはちょっと引き気味……いや、気圧され気味らしい。
「ま、魔法少女かー……。言われてみれば、そうなのかも」
自分のあり方に少し疑問が浮かんだらしい。
まぁ、変身の時にポーズを決めるのはまだしも、掛け声が『変身!』だけでは、やっぱり『魔法少女』というよりは『仮面何某』の方になってしまう。
変身ポーズやら口上やらが必要なのかどうかはともかくとして。
『で、あたしの使い魔のジュジュ。言葉はそっちには通じないみたいだし、あたしが通訳するね』
”……ジュ”
『よろしく、だって』
小さなネズミの姿をした使い魔――もしかしたら、彼?彼女?も私と同様に異世界、もっと言えば日本から転生してきた可能性がある。『ゲーム』の話を聞くだけではなく、いずれその辺りのことも尋ねてみたい。
ジュジュたちに話すよりも、まずありすに話すことの方が先か。
『早速だけどさー、いっちょ行っとかない?』
「うむ、良いぞ!」
……ああ、早速クエストに一緒に行かないか、という意味か。
立ち入った話はまだ出来る段階ではないし、それも悪くはないか――ああ、いや。
”アリス、宿題”
「……だ、大丈夫、後でやる」
小声での突っ込みに返答する。後で泣かなければいいけど……。
”ホーリー・ベル、悪いけど現実世界の方での都合があるから、そんなに長くはクエストに行けないけど、いいかな?”
『もちろん! ……あたしの方も、まぁ色々あるしね』
彼女が現実世界ではどのような人物かはわからないが、アラクニドとの戦いが終わった後の話や、夕方の時間に『ゲーム』に参加できるところからして、ありすとそう変わらない年齢であろうとは予想している。年上だとしても、精々中学生(この世界に中学校があるのかはまだ未確認だが)といったところだろう。親元で暮らしているのであれば、何から何まで自由にできるとは限らない。
”それじゃ、行こうか”
「よし、では行くぞ!!」
そして、私たちはホーリー・ベルと共にクエストへと挑む――
* * * * *
結局、ホーリー・ベルと四回クエストに行ってきた。
「ひゃっはあぁぁぁぁぁ! 次、次だ!!」
『お、アリス、ノリノリじゃーん!』
アリス一人でもさほど苦戦はしなくなった火龍だが、それがホーリー・ベルと組むとほぼ瞬殺できるようになっていた。
火龍三匹同時討伐というかなりの高難易度クエストでもどうにかなってしまう。
万能の能力を持っているがやや火力偏重なアリスに対して、ほぼ同程度の万能さを持ちつつ支援系の能力に秀でているホーリー・ベルは、ゲーム全般にそこまで詳しいわけではない私でもわかるほど相性がいい。
この二人が最初から組んでいれば、アラクニドも対して苦戦はしないだろう。
強敵を難なく撃破することが楽しくてたまらないらしく、アリスのテンションがかなりおかしな具合になっている。
……とはいえ、そろそろいい時間だ。
”あー、アリス。そろそろいい時間だし、次が最後ね”
マイルームには時計がないので正確な時間はわからないが、もうじき夜の七時になると思う。
チャットを開始した時にはアリスは机に向かっていたのでおそらくは机に突っ伏して寝ているようには見えるだろうが、美奈子さんに余計な心配を掛けたくはない。
「くっ……わかった……」
晩御飯もそうだが、未だ残る大量の宿題の山を思い出したのか、アリスのテンションが正常値まで戻る。
『おっけー。じゃ、次のやつ行って今日はお開きね』
ホーリー・ベルも同意する。彼女もアリス程はっきりとわかるわけではないが、結構テンションが上がっているようだった。ありすと同様に、元々ゲーム好きなのかもしれない。
最後に挑むクエストは、今まで見たことのないものである。
”『謎の魔獣退治』……か”
今までの傾向から、モンスターの名前がわからないクエストは、大体が複数種類のモンスターとの戦いになるか、あるいは初めて登場するモンスターが相手になる。
クエスト名からして今回は後者であろう。歯が立たないような強敵ではないことを望む。
『さぁ、行こう!』
クエストを選択肢、本日最後のモンスター討伐へ私たちは向かった。
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