第1章13話 侵蝕 3. 冥界の毒婦

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ――流石に今回は厳しいな――

 アリスは素直に自身の不利を認める。

 雑魚を引き連れて襲い掛かってきたモンスターは過去にもいた。ギガリスなどがその典型だ。今回の討伐対象モンスターもその類なのは間違いない。

 今までと異なるのは取り巻きの雑魚の数が圧倒的に多いこと、そして戦場がアリスにとって不利な地形であることだった。


「はぁっ、はぁっ……やりにくい……っ!!」


 一匹ずつの戦闘力は大したことはない。メガリスと同程度だろう、アリスの攻撃であれば一撃で倒すことが出来る程度の生命力しかない。

 問題なのは幾ら倒しても次々と湧き出てくる『数』である。《剣雨ソードレイン》で一掃したと思っても、すぐに通路の奥から新手がやってくる。

 最初のうちは出てくる敵を片っ端から倒していたが、このままでは魔力が尽きてしまうと判断したアリスは敵を倒すよりもこの場を脱出することを優先することとした。


「mk《ウォール》、ab《アイス》――ext《氷壁アイスウォール》!!」


 前後から敵に襲い掛かられていては対処しきれなくなる。背後の通路に氷の壁を出現させて塞ぐ。


(――これで出口がこちらになかったら、困ったことになるが……考えていても仕方あるまい)


 洞窟の構造は全くわからないのだ、考えるだけ無駄だと割り切って氷で塞がっていない通路の敵を薙ぎ払いながら突き進む。

 とどめはあえて刺さない。とどめを刺すために使う魔力がもったいないし、この場から逃れるのが目的なのだからスコアを稼ぐ必要は全くない。

 分岐に入ったら迷わず適当に道を選び、退路を《氷壁》で塞いで追手がすぐにこれないようにする。普段はあまり使い道のない『氷』の力だが、余り広くない通路を塞ぐという用途には使える。


「くそっ! まだ出口には辿り着けないのか!?」


 敵からダメージを受けてはいないが自分の足で走り回っているため体力の消費は激しい。

 ――ダメージを受けることで減る体力、つまりは『生命力』やゲームでいう『HP』と、身体を動かすのに必要な本当の意味での体力は別扱いになっているのか、攻撃を食らってはいないものの激しく消耗している。アリスの本来の肉体であるありすの時よりは運動能力や体力は上がっていることは実感できているし、スタミナの回復も早い。しかし、狭い通路で無数のモンスターを薙ぎ払い、攻撃を回避しながら先の見えない洞窟を駆け抜けることについては、多少体力が強化されていても意味がないようだ。

 いつ魔力が尽きるか、それとも体力が先に尽きて動けなくなるか、どちらかになったら『詰み』である。そうなる前にラビと合流するか、あるいは洞窟を抜けてもっと戦いやすい場所へと移動できるかが勝負の鍵であろうとアリスは考える。

 ……考えたのだが。


「――ハッ!」


 突然の事態に思わず笑みを零す――レッドドラゴンと戦っていた時と同じように、激闘の予感に喜ぶ凶相の笑みだ。


「まさか、先に『ボス』に辿り着くとは……オレの運がいいのやら悪いのやら」


 《氷壁》で退路を塞ぎひたすら進み続けていくうち、他の通路とは異なるかなり広い部屋へと出た。

 出口か、と一瞬だけ思ったがすぐに否定する。相変わらず《灯明》がないと何も見えない真っ暗闇なのだ、洞窟内の広い部屋というだけだろうと思いなおす。

 部屋の中央にいた『それ』がアリスに気がつきのそのそと動き出す。

 緩慢な動作だが、動き始めだからだけなのかもしれない。実際、今まで襲い掛かってきていた雑魚はどれも素早い動きをしていた。


(ここから脱出は……厳しい、か?)


 部屋はかなり広く、どこかに横穴があるのかもしれないがアリスの位置からは確認出来ない。動き回りながら《灯明》をばら撒いて視界を確保しないとわからない。

 何よりも今目の前にいるモンスター……レーダーを持たないアリスだが、それでもそいつが『ボス』であるとわかるほど、存在感と威圧感が他の雑魚とは比べ物にならないモンスターがおり、その視線はアリスへと向けられている。迂闊に背を向けて逃げようとしたら、背後からばっさりとやられかねない――そんな予感がした。


(……逃げ道を考えながら戦って勝てる相手ではない、な)


 大きさこそはレッドドラゴンよりもかなり小型ではあるが、レッドドラゴンよりも格上のモンスターであると感じる。

 その姿は、一見、巨大な『蟷螂』に見える。二本の鎌状の腕は正に蟷螂のそれだ――本物の蟷螂と異なり、金属質な明らかに『切断』を目的とした鎌であるという違いはあるが。

 下半身――と言うべきなのか、蟷螂ならば足や羽が生えている部分は巨大な『蜘蛛』となっている。八本の足が生えており、蜘蛛特有の素早い動きをするであろうことは想像できる。更に、糸を吐くことも出来るのだろう、周囲には蜘蛛の巣のように糸が張り巡らされている。

 頭部はアリスの知るあらゆる虫に当てはまらない。蟻のような獲物を噛み砕く牙を持ち、頭部から生えている二本の触角は無数の細かい節で構成された鎖のような形状だ。暗闇の中で煌々と濁った赤色の光を放つ六つの目は蜘蛛のものだ。

 そして全身は甲虫の如く堅い甲殻に覆われている。昆虫と節足動物を混ぜ合わせた上で甲殻類の如き外殻を持たせた不気味な『キメラ』――こいつこそが、討伐対象の『冥界の主』であるとアリスは理解した。


「来な、化け物――!!」


 とにかく今は戦うしかない――アリスは覚悟を決め、『杖』を構えた。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 アリスの使う魔法は大きく分けて三種類――『杖』を始めとした装備品、より正確には装備品に含まれる万能物質マジックマテリアルを変化させる『変化魔法』、その『万能物質』を作り出す『創造魔法』、そして万能物質に対して異なる属性を付与する『付与魔法』だ。

 基本的にはアリスは三種類の魔法を組み合わせることで様々な効果の魔法を作り出して戦う。

 一般的に想像される『魔法使い』とか『魔術士』と言った後衛職とは異なる特徴の魔法を使うのだが、そうした後衛職の魔法と明確に異なる点がアリスの魔法にはある。

 それは、『持続性』だ。


「md《脚甲グリーヴ》、ab《跳躍ホップ》――ext《跳脚甲グラスホッパー》!!」


 他に比べて広い空間であるとは言え、《天脚甲》を使って動けるほどではない。また、《天脚甲》は移動範囲を広げるだけで移動速度はさほど変わらない、今必要なのはそこそこ程度の広さの空間を素早く移動することの出来る機動力である。そう判断したアリスはブーツをより頑丈な脚甲グリーヴへと変化、そこにジャンプ力強化の魔法をかけて機動力を確保しようとする。

 更に、


「md《大鎌サイズ》、ab《火炎フレイム》!」


 『杖』の先端をいつものように『槍』ではなく巨大な『鎌』――実戦には本来は向かないのだが――死神の鎌へと変え、更に炎の属性を付与する。

 燃え上がる巨大な鎌を携え、『冥界の主』――アラクニドへと挑みかかる。




 アリスの魔法の持つもっとも特徴的な特殊性とは『持続性』にある。

 原則として、アリスが作ったり属性を付与したりした万能物質は、アリス自身が消そうとしない限りはその場に残り続ける。

 《剣雨》で撃ち込んだ剣も、アリスが消さない限りは突き刺さったままある程度の時間は残り続けるのだ。残しておいても再利用することが難しいのでさっさと消しているだけである。

 この『消さない限り効果が続く』という点がアリスの魔法の特徴であり、そして最大の強みであると言える。ただ、作った魔法が壊されたりした場合はその限りではないが。

 使う魔法を厳選しそれに合わせた戦術を取れるのであれば、魔力の消耗を極限まで抑えた長期戦に耐えることが出来る、ということだ。いわゆる後衛職としての魔法使いとして致命的な状態、すなわち『魔力切れ』による行動不能を避けることが出来る、これこそがアリスの魔法の持つ強みである。

 勿論、だからと言って延々と戦い続けられるわけではない。状況に合わせて魔法を使う必要はあるだろうし、何よりもアラクニドへと辿り着く前に感じていたように疲労しないわけではないのだ。体力回復の魔法などアリスは持っていないし、数値化されていない疲労の回復も当然出来ない。


「さぁて、ここからは根競べだ……」


 ラビがいないため回復アイテムが使えない状態だが、幸いにも『持続性』に優れた魔法をアリスは使える。

 使い捨ての射撃系の魔法を極力使わず、近接戦闘系の魔法を使うことで魔力を節約――ラビとの合流までもたせようとしているのだ。そのまま倒せるならば問題ないが……。


(そう甘くはいかなさそう、だな)


 感じるプレッシャーからしても、戦う地形にしても、ラビが近くにいないことを差し引いても今までで一番厳しい戦いになるであろうことを予感していた。

 楽勝とまではいかないが、この難敵に勝利するために必要な条件が2つある、とアリスは考える。

 1つは『広い場所』、もう1つは大量の魔力を消費する『強力な一撃』だ。

 後者についてはラビと合流しない限り迂闊には使えない。近接用の魔法を使っているとしても、いざという時の『保険』としての魔力すら無くなる状態にはなれない。


「――こちらから行くぞ」


 燃え上がる大鎌を警戒しているのか、アラクニドはすぐに襲い掛かってくる様子はない。アリスの様子をじっと窺っている。

 時間稼ぎは望むところだが、残念ながら待っていてもラビが単独でアリスの元へとやってこれるとは到底思えない。むしろ敵側の方が小型の敵が集まってきてしまうだろう。敵の頭数が増えれば増えるほど、アリスの方が不利になっていく。

 これ以上は待てない。アリスは自ら討って出る。


「――ふぅっ!!」


 両足に力を込めて地面を蹴る。爆発的な力が脚甲からプラスされ、まるで弾丸のようにアリスの身体が弾かれる。《跳脚甲》の力によりジャンプ力が強化されているのだ。

 真正面からアラクニドへと迫り炎の鎌を横薙ぎに振るう。

 が、アラクニドはその巨体に見合わない身軽さで後ろへと下がってかわす――いや、見合わないわけではないのだろう、八本の脚を動かすことで本物の蜘蛛のような敏捷さを持っている。

 気持ち悪い、という思いすらわかない。《跳脚甲》のジャンプ力による急襲へと完全に対応していることに脅威を感じる。

 一撃目をかわされたことについて驚きはしてもすぐに気持ちを切り替えて追撃に移る。

 ――が、


「くっ!?」


 鎌が横に振りぬかれたタイミングに合わせて、今度はアラクニドが前へと出て両腕――奇しくもこちらも鎌だ――を振り下ろす!

 武器で受け止めるということはしない。『杖』は先端の万能物質部分はともかく、柄の部分がどこまでの硬さかはわからない。武器ごと真っ二つにされるのだけは避けたい。

 横薙ぎにした鎌の勢いそのまま、左側へと跳んでかわす。

 アリスの一連の動きを、アラクニドの八つの瞳は捉え続けていた。


「こいつ……っ!!」


 避けたアリスを追ってすぐにそちら側へと跳んで追いかけてくると同時に、脚を振り下ろす。

 脚の先端も鋭く尖っており、突き刺されれば致命傷となりかねない。

 地を蹴り回避し続けるが、アラクニドはアリスを執拗に追って追撃を仕掛ける。

 敵の目を振り切ることが出来ず、アリスは追い立てられ防戦一方となってしまっていた。


(くそっ、このままでは……)


 魔力の消費はないが、そのうち攻撃を食らって体力を削られてしまうし、何よりも精神的な疲労が激しい。いざと言う時に回復が出来ないというプレッシャーが大きい。

 だからこそ、アリスの魔法の持つ特性『持続性』は有効に働く。魔力の回復が出来ない状況にあれば、《跳脚甲》のような身体能力強化の魔法を使ったり、『杖』を武器に変えることで戦ったりすることで魔力の節約が出来る。

 ラビとの合流が絶望的であろうことはもはや明らかだ。敵の群れをラビが単独で突っ切ってこれるとは思えない――敵がラビに一切攻撃を仕掛けてこないというのであれば話は別だが。

 魔力回復が期待できないのであれば、一度発動させてしまえばずっと残り続けるアリスの魔法は持久戦に向いているといえる。

 ――とはいえ、いくら魔力の消費を抑えられると言っても、自分よりも圧倒的に体格、体力等全てにおいて勝っている相手に対して格闘戦を続けることは無理がある。

 アリスもそれはよくわかっており、身体強化の魔法は機動力強化を重視して回避を重視している。


 ――『撤退』か。


 好戦的とはいっても何も考えていないわけではない。ここまでの攻防と、ラビのいない現状を省みてアリスは『撤退』の可能性を検討し始める。

 偶然、アラクニドの元へと辿り着けたのでそのまま戦闘を行っていたが、かなり分が悪い戦いであることは明白だ。とにかく、まずは暗い洞窟から抜け出して、ラビと合流することが先決であるとアリスは考える。尤も、それが難しいという結論に達したからこそ、そのまま戦っていたのだが……。

 脱出に使うための魔力を残しつつ、アラクニドと戦う――手傷を負わせていけば相手の方が退いてくれる可能性もある。


「なんとも――消極的な!」


 自らの考えに嫌そうに顔を歪めつつも、このまま戦い続けていてもジリ貧でしかないことは認める。

 一発逆転を狙うことも出来ないわけではない――全魔力を一気に使った強力な魔法で大ダメージを狙うということも出来るが、それを選択するほどにはまだ足掻いていない。

 それに、全魔力を放出してアラクニドを倒せたとしても、『ゲーム』から脱出するためには『ゲート』まで辿り着かなければならないし、その道中に子蜘蛛がいたら何も出来ずに食い殺されてしまう。


「まだまだ!!」


 故に、今はまだこの場で持久戦を挑むしかないのだ。

 炎の鎌を横薙ぎに振るい、相手の足を狙う。

 アラクニドは軽くバックステップでそれをかわすと、今度はすぐさまアリスの方へと飛び掛る。


「cl《氷壁》!!」


 鎌で迎え撃つには重量が違いすぎる。押しつぶされるのがオチだと判断し、すぐさま《氷壁》を発動させてアラクニドにぶつける。

 ダメージそのものはたいしたことはない。ちょっと堅い壁に勢いよくぶつかった程度で、少し怯んだもののすぐにアラクニドは立ち直る。

 その一瞬の隙にアリスは動く。

 《跳脚甲》の力を使い、アリスもまた《氷壁》へと突進する――氷の壁をはさんで丁度ぶつかりあう形だ。

 氷の壁の存在に気付いたアラクニドだが、正面から獲物が突進してくるのに反応し前脚を振り上げる。


「ab《硬化ハード》!」


 前脚の先端に生えている鋭い爪で氷を砕こうとするアラクニドであったが、それよりも早くアリスが新しい魔法を《氷壁》に付与する。

 既に存在する魔法へと更なる重ね掛けを行うこと――これができること自体アリスは知らなかったが、咄嗟の思いつきで行ってみたらできてしまったようだ。

 《氷壁》へと新たに付与した属性は『硬化』、つまり更なる硬さを氷へと与えたのだ。

 爪を突き立てて壁を破壊しようとしたアラクニドであったが、《硬化氷壁》にはわずかに爪先が食い込んだ程度で弾かれてしまう。

 ……この魔法で周囲を取り囲んでしまえば安全に過ごせるか、あるいは敵を閉じ込めたり出来るのではないか、と一瞬だけアリスは思うがすぐにその考えを捨てる。

 対抗策など、幾らでも思いつくことが出来る。モンスターにその知恵がないと侮ることは命取りになりかねない。

 だからとにかく動き続ける。身体を動かし、頭を働かせ、常に相手から視線を外さず、戦い続ける。


「まだまだぁ!!

 md《バンド》、ab《剛力ストレングス》――ext《剛力帯パワーベルト》!!」


 ドレスの両袖を黒い帯へと変化させて腕全体にきつく巻きつけさせる。更に強化の魔法をかけることにより、装備者の腕力を強化する魔法道具マジックアイテムのような魔法とする。


「はぁっ!!」


 《硬化氷壁》に弾かれて怯んだアラクニドが立ち直る前に、強化した腕力で氷壁を突き飛ばしてぶつける。

 そのままの勢いで地を蹴り、《硬化氷壁》ごとアラクニドを壁まで突き飛ばす。

 体勢の崩れた今しかない、そう判断したアリスは更に速攻を仕掛ける。

 氷の壁の横から鎌を突き立てる。計算してたわけではないが、これが『槍』だったら自ら作った氷の壁が邪魔で攻撃できなかっただろう。

 突き刺さった鎌の先端から炎が燃え移りアラクニドが苦悶に身をよじる。


 ――攻撃は効かないわけではない。全魔力を使った魔法を使わなくても、当てさえすればダメージを与えることは十分できる。


 それがわかっただけで気力がわいてくるのをアリスは実感していた。

 攻撃を当てること自体がまず大変ではあるものの、攻撃が『通じない』わけではないのだ。レッドドラゴンの時と同じだ、攻撃が効くのであればどうにでも出来る。


「よし……! ab《柔化ソフト》――ab《燃化イグニット》!!」


 氷の壁を柔らかい物質へと変化させて、アラクニドを包み込むと共に、もう一つの属性――『可燃性』を付け加える。


「これで、どうだ!」


 炎の鎌を薙ぐと同時に今度は後方へと向けてジャンプする。

 壁に押し付けられたまま全身を可燃性物質に包まれたアラクニドは逃げ場もなく、火達磨となる。

 ジャンプして距離を取ったアリスは巻き込まれずには済んだが、苦痛で転げまわるアラクニドに巻き込まれるのは時間の問題だろう。

 地面をごろごろと転がって炎を消そうとするアラクニドであったが魔法の炎は簡単には消えない――というよりも、全身にまとわりついている可燃性物質となった万能物質マジックマテリアルがある限り、延々と燃え続ける。いわゆる『ナパーム弾』のようなものだ。


「あ……」


 炎で継続的にダメージを与えられること自体はいいのだが、火達磨にしたのはあまりいい手ではなかったかもしれない、とアリスは気付く。

 転げまわる巨大な蜘蛛――つまりは、無軌道に動き回る巨大な火の玉と化してしまったのだ。アリスの魔法とはいっても、一度火が着いてしまえばもう関係ない。アリス自身にも火は危険なのだ。

 しかも外とは違い密閉された、逃げ場の少ない空間……加えて、


「げ、糸が!?」


 周辺に張り巡らされた糸に火が燃え移り、部屋中が炎に包まれていく。

 炎を防御する魔法を使うことも考えたがすぐに上手い魔法を考え付かないため、アリスは仕方なしに魔法を『キャンセル』する。


「使った魔力は痛いが、仕方ない……! rlだ!」


 アリスの魔法は一度発動するとそのまま継続して効果を発揮するが、当然途中で止めたい場合もある。

 キャンセルの方法は二種類ある。発動している魔法に対して別の魔法で『上書き』をすること――例えば《天脚甲》を使っていたとしたら《跳脚甲》を上書きすれば効果は解除される――別の魔法が発動することになるので厳密には魔法の『解除』ではないが。

 もう一つの方法は、文字通りの『強制終了』だ。使った魔力は元に戻らないし万能物質も無くなってしまうが、魔法の効果は完全に消える。

 今回キャンセルしたのはアラクニドに纏わせた可燃性物質だ。可燃性物質がなくなると共に火種が消えたのでほとんどの火が消える。糸に燃え移った火は消えないが、転がりまわる火達磨に比べればたいした問題ではない。

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