小さな魔女のはじめてのおつかい4

 家を出て、森を抜けた先。時間としては30分ぐらいで1番近い町――レイニードにたどり着く。

「ルーチェじゃないか。今日はウルとお使いかい?」

 町の入口で話しかけられる。

「ううん!納品に来たの」

 おばさんは驚いたようだった。わたしが納品にくるのは初めてだからかな。

「そうかい、大きくなったね」

「成長期だもん」

「ふふ、そうだね。良かったら飴食べるかい」

 おばさんがパンパンのポケットから取り出したあめは、グレープ味だ。

「いいの?ありがとう」

「それ食べて頑張りなよ」

「うん!頑張る」

 バイバイと手を振って、おばさんと別れる。それからウルと町の中心部にある薬屋に向かう。

 水色の屋根の少し大きなお店。ドアを開ければ、カランコロンと綺麗な音が鳴った。

「いらっしゃい……ルーチェじゃないかい!今日はどうしたんだい?」

「おはよう、モルファさん。今日は納品に来ました」

「……!そうね。ルーチェもウルと一緒に納品できるようになったんだね」

「うん。いつか1人で来る……来ます!」

 隣から寂しそうな声がした。気になって見たら、ウルは涙目でわたしを見ている

「ずっと一緒にいてはダメですか……?ご主人様の行くところには着いて行きたいです」

 悲しそうに耳としっぽを垂らし、小さな声で訴える。その姿が可愛くて、わたしはぎゅっと抱きしめる。

「ごめんね。ずっと、ずぅーと一緒に行こうね」

「はい!ありがとうございます!」

「相変わらず仲がいいわね。2人とも」

「家族だから……です。あっ!モルファさんこれ薬」

 わたしは薬の入った箱を、カバンからだして元の大きさに戻す。モルファさんはそれを見て、お兄ちゃんがたまにするちょっと悲しそうな、でも嬉しそうな顔をする。

「どうかした……ですか?」

「いや、あの子が納品に来てた頃は、これが当たり前だったんだよなって思ってさ」

 あの子。それが誰を指すのか分かったわたしは、上手く言葉が出てこなかった。

「ただいまー。……っ、ルーチェ!?」

 重苦しい空気の空間に響いた明るい声。振り向けばそこにいたのは。

「ディル!おはよう〜」

「お前はなんでいるんだよ!」

「薬の納品だよ」

 ディルはわたしの幼なじみだ。お母さんはモルファさん。モルファさんとわたしのお母さんが仲良しなので、わたし達もむかしからよく遊んでいた。

「ルアンさんじゃなくて、お前が?」

「うん。ウルと2人で」

「こら!ディル、女の子にお前はないだろう」

「うっ……。いいんだよ、ルーチェも気にしてないし」

 カウンターを出て、つかつかとディルに近づくモルファさん。そのまま勢いよく、ディルの頭を手で下げさせた。

「そういう問題じゃない!ごめんねルーチェ。うちのが口悪くて、一体誰に似たんだか」

「大丈夫、モルファさん。ディルの言う通り、いつもの事だもん……です」

「良くないですよご主人様」

「ウルの言う通り。誰にでもそんな言葉使いしてると困るのはディルだからね」

「……ルーチェにしかしねぇよ」

 小声でディルが何かを呟いた気がしたけど、少し距離があって聞こえなかった。聞き返そうかちょっと悩んだけど、やめる。それよりもしなくちゃいけないことがあるから。

「モルファさん。これ納品書……です」

「あぁ、ありがとうルーチェ。あと敬語慣れないんだろ。無理に使わなくていいよ」

「でも、お仕事の相手とかは敬語を使うものって、本で読んだの」

「他では使わなくちゃいけない時も、あるかもしれないけど。アタシなら大丈夫だよ」

「そっか、うん!ありがとうモルファさん」

 敬語の使い方は、今度お兄ちゃんに習おう。そして次に納品に来るときは使いこなしてびっくりさせよう。そう心に決めた。

「それで、ディル。ちゃんと買ってきたかい?」

「買ってきたよ」

 お使いのものが入ったカバンを渡したディルは、そのまま2階に上がろうとする。2階がおうちにになってるので、多分部屋に戻ろうとしたんだろう。

「ディル、どうせやることないならルーチェを森まで送っていきな」

「はぁ!なんで俺が……」

「大丈夫だよ。ウルがいるから」

 ディルも嫌そうだし。そう断ればディルはくるりと方向転換。

「さっさと行くぞ」

「え?大丈夫だよ」

「いいんだよ」

 何がいいのかさっぱりわからない。モルファさんは呆れたように笑っている。ウルもため息つきながら後に続いていて、たぶんわかってないのはわたしだけだ。

「帰りましょうご主人様。ルアン様が待っています」

「うん、でもディル本当にいいの?」

「いいって言ってるだろ。それともお前は嫌か……?」

 わたしはディルに近づいて、手をぎゅっと握った。

「ううん!最近あんまりディルと会えてなかったから嬉しいよ」

「そっ!それならいいだろ!」

 怒ったような声のディルは勢いよく手を振って、私の手はディルから離れてしまう。そういえばディルとあんまり会えないと、少し前お兄ちゃんに話したなぁ。そしたらなんて言ってたっけ。確か「難しい年頃だからしょうがないんだ。ディルがルーチェを嫌うことなんてないから、安心しろ」だっけ。これも難しい年頃ってモノなのかな。よくわからなかったけど、むかしと今はあんまり変わらない。小さい頃だっていつだって、わたしがディルを追いかけてたから。

 わたしは少し先に行ってしまった、ディルとウルを早足で追いかけた。

 いつまでも追いかけるだけじゃだめだから。少し前を歩くディルも。ずっと先にいる偉大な魔女のお母さんも。絶対に追いついてみせるんだから。

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