小さな魔女のはじめてのおつかい2

 机の上には美味しそうなトーストに、スクランブルエッグとベーコン。お兄ちゃんは、私の大好きなホットミルクをコップに注いでいた。

「お兄ちゃんおはよう!」

 ホットミルクのいっぱい入ったコップを机の上に、お鍋を使い終わった調理道具と一緒に置いたお兄ちゃん。そのままわたしを抱きしめた。わたしもお兄ちゃんを抱きしめ返す。

「おはよう!ルーチェ。待ってろ、すぐにルーチェの大好きなプリンを持ってくるから」

「プリンもあるの!?」

「あぁ!朝のデザートに」

 お兄ちゃんの作るプリンはとってもなめらかで、すごくすごく美味しい。わたしは嬉しくて、お兄ちゃんを力いっぱい抱きしめた。

「ありがとう、お兄ちゃん!大好き」

「俺もルーチェのことが大好きだよ」

 優しくて、プリンと同じくらい甘い声。気になって身体を離し、お兄ちゃんの瞳を覗き込む。金色の瞳は月のように仄かに輝いていた。……その瞳から目が離せない。

「2人とも!早くしないと冷めてしまいますよ!」

 大きなウルの声。ゆっくりと首を動かして声の下の方を見れば、ウルがその手にプリンを2つ持っていた。

「プリン!!」

 わたしはプリンのために急いで椅子に座った。お兄ちゃんはそんなわたしをいつも通り。暖かな瞳で見ている。それをむず痒く感じた。

「お兄ちゃん早くご飯にしよ。せっかくお兄ちゃんが作ってくれたのに、冷めちゃう」

「……そうだな。ウルがせっかく持ってきてくれたしな」

「はい、早く食べたかったですから」

 なんだかお兄ちゃんとウルの間に、バチバチとした何かが見えるような。気のせいだよね。2人とも魔法は使えないしね。

 お兄ちゃんが座ったのを確認してから私は手を合わせる。

「「いただきます」」

 自然と声が重なり、おのおの朝ごはんを食べ始める。シンプルなスクランブルエッグに、ベーコンの塩気がとても際立つ。やっぱりお兄ちゃんはお料理が上手だ。

「ルーチェ。本当に今日着いていかなくて大丈夫なのか」

「大丈夫だよ。ウルも一緒にいるし」

「はい!護衛ならお任せ下さい」

 胸を張るウル。護衛とは少し仰々しい言い方かも。今日行くのは近くの町。しかも昔から付き合いがあって、わたしが魔女だってことを知ってる人達ばっかり。だから大丈夫だと思うんだけどな。

「……辛かったらすぐ帰ってきていいからな」

「大丈夫だよ。1人前の魔女になるためには、納品も自分でできなくちゃ!」

 そう、今日町に行く理由。それは薬の納品だ。わたしが魔法を使って作る薬。いつもは納品をお兄ちゃんに任せてるけど、そういうこともできなくちゃお母さんみたいな魔女にはなれない。だからお兄ちゃんに何度もお願いして、やっと認めてもらえたんだ。だから頑張らなくちゃ。

「……わかった。でも何かあったら無理しないで帰ってこい。今日のお昼ご飯はルーチェの好きな物作って待ってるから」

「ありがとうお兄ちゃん!」

 まずは頑張るためのエネルギーをしっかり取らなくちゃ。わたしは朝ごはんをよく噛んで、しっかり食べる。お母さんも言ってたご飯はちゃんと食べないと、元気がでないって。立派な魔女になるためには、好き嫌いしちゃダメだって。でもお兄ちゃんがなんでも美味しく作ってくれるから、嫌いなものって思いつかない。苦いピーマンも、細かく切って混ぜちゃえば味気にならないし。コーヒーはミルクを混ぜちゃえば、まろやかになって飲めちゃうし。プリンは甘くて滑らかだし。もしかしたらお兄ちゃんも魔女だったりするのかな。こんなにお料理得意だし、お料理魔女かも。今度こっそり聞いてみよう。魔女の中には正体を明かしたくない、秘密主義?の人も多いらしいから。

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