6 逃走

 ライガくんはモフモフの手で私を引っ張っていく。


 私はあなたを捨てようとしたのにと思うと、自分が恥ずかしくて、ますます涙が出てきた。


「待てー!」


 背後から、人形たちが迫ってくる。


 森の中は木がしげって暗くて、先が見えない。だけど前に進むと木々が避けて道を作ってくれるから、私たちは迷うことなく直進できた。


 泣きながら走っているから、苦しい。


「ライガくん、ごめんね……!」


 とにかく謝りたかった。


「え、何が?」


 ライガくんはビニール袋に投げ捨てられた意味が分かってないのかな。自分がすごく酷い人間に思えてきて、私は泣きじゃくりながら伝えた。伝えるべきだと思った。


「私、お母さんにお人形の整理をしなさいって言われて、オオカミの人形のことをよく覚えてなくて、捨てようとしちゃったの……!」


 隣からライガくんが息を呑む音が聞こえる。ああ、怒らせちゃったかな。でも、やってしまったことはもう戻せないから。


 だったら謝るしかない。謝って、ちゃんと大切にするって伝えないとだめだ。


「……オオカミは、俺のお気に入りだったんだ」

「ごめんなさ……え?」


 ひらすら走りながら、ライガくんが牙を覗かせて笑う。顔は怖いのに、ちっとも怖くない。喋り方が優しいからかな。


「モモと離れることになって、モモの宝物と交換してモモのことを覚えていたかった」


 あれ、何の話だろう? と思ったけど、離れるのが嫌だったことは分かったので、心の底から謝る。


「ごめん、本当にごめんなさい……!」


 ううん、とライガくんは微笑んだ。


「モモが忘れちゃっても、俺が覚えていればきっとまた会えると思ってたから大丈夫」

「ライガくん……っ」

「癇癪を起こしそうになった時、人形を見てモモを思い出して頑張って抑えたんだ。モモに相応しい男になりたくて」

「え……?」


 ライガくんは、追ってくる人形の先頭に立つオウジくんをちらりと振り返った。


「あの王子人形がもしかして……」

「どうしたの?」


 ライガくんは前に向き直ると、横目で私を見てにっこり笑う。


「もしそうなら、いい考えがあるんだ」

「?」


 何のことか分からなかったけど、ライガくんが笑ってくれたのならいいのかな。


 少しずつ、前方が明るくなってきた。森が終わりそうだ。


「モモ。この森を抜けたら家に帰れるよ。頑張って!」

「うん!」


 途中、木の枝にティアラが引っ掛かり、後ろに転がり落ちていった。赤いバラのドレスが、元の赤ずきんに戻っていく。


「そっちの方がいいよ」

「え、えへ」


 ライガくんの言葉に、こんな時なのに照れてしまった。


 どんどん先に進む。森が突然開け、先には満天の星空が広がっていた。


 森の先が、星空の空間になってる!


 ライガくんが前を指差す。


「俺はあそこから来たんだ! だからあそこに飛び込めば帰れる筈だ!」

「ライガくんも一緒に行くんだよね!?」


 私の言葉に、ライガくんはにこりと笑って首を横に振った。

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