5 ライガ

 オウジくんが、少し悲しそうな顔になる。


「ずっとモモちゃんと話したかったのに、ちっとも振り向いてくれなかったね」

「ふ、振り向く?」

「そうだよ。一緒にお話ししようって思ってるのに、モモちゃんはお友達とのおしゃべりに夢中でさ」

「オウジくん……」


 ひとりでお人形遊びをする年齢じゃなくなった。それがオウジくんには理解できなくて、寂しくなっちゃったのかな。


「ご、ごめんね……でも私」

「だからね、僕は決めたんだ」


 何をかな。


「モモちゃんと結婚したら僕といてくれる。他の奴らと話す姿を見なくてもいい」

「え……」


 ぞく、と怖くなった。


「だ、だからね、オウジくん。私は……」

「さあモモちゃん、君の部屋はこっちだよ。明日の結婚式の衣装もあるよ」


 オウジくんが私の肩を掴んだまま一歩前に進むと、人形たちが道を開ける。


 今しかない!


 私は「ごめん!」と言って両手でオウジくんを突き飛ばすと、全速力で来た道を戻り始めた。


 後ろで、人形たちが叫ぶ。


「モモちゃん待って!」

「モモちゃん、帰っちゃだめ!」

「逃がすな、捕まえろ!」


 最後の怒鳴り声は、オウジくんの声だった。


 ――だって、だってだって!


 怖くて、でも戻って謝ることもできなくて、ボロボロと泣きながらお城の外に向かってひた走る。


 階段の前で振り返ると、人形たちが列をなして怖い顔で追いかけてくるのが見えた。


「私……おうちに帰りたいの!」


 幼い頃は、人形遊びが楽しかった。だけど私だっていずれ大人になる。だから余計、どうしたらいいか分からなかった。


 泣きながら、階段を駆け下りていく。すると、階段の真ん中で足を滑らせてしまった!


「モモ、危ない!」


 モフ! と柔らかく、でも力強く私を受け止めてくれたのは、外でポツンと待っていたオオカミ人形のライガくんだった。


「大丈夫? どこも痛くない?」


 ライガくんの口から覗く牙はずらりと並んで一見恐ろしげだけど、私を見る顔は心配そうで、ちっとも怖くない。


「う、うん……!」

「中に入れなくて心配してたんだ。一体どうしたの? 泣いてるじゃないか!」


 ライガくんは、泣いている私の頬をふわふわの手で拭ってくれる。


 だけどその時、階段の上から人形たちの怒鳴り声が降ってきた。


「いた、モモちゃんだ! 捕まえろ!」

「オオカミといるぞ! オオカミめ、モモちゃんを返せ!」

「モモちゃんは僕と結婚してずっとお城にいるんだ!」


 人形たちは、口々に叫んでは大騒ぎしている。


 みんな、私の大事なお人形さんたちだったのに。なんでこんなことになっちゃったんだろう。


「……どういうこと? 結婚ってなんだよ!」


 ライガくんが、人形たちを睨みつけた。私は泣きじゃくりながら、ライガくんに訴える。


「私、おうちに帰りたい……! 助けて、ライガくん……!」

「モモ」


 ライガくんが、私の頭を優しく撫でた。階段の上にいる人形たちをキッと睨みつけると、私の手を握る。


「分かった、俺に任せて! 多分来た道を戻れば帰れると思うから、モモを家まで送り届けるよ!」

「来た道?」


 私は気が付いたら広場に立っていたけど、ライガくんは違うのかな。


 ライガくんは、私の手を引っ張って走り始めた。


「こっち!」

「うん!」


 暗い森の中を駆ける。


「モモに会いたい、もうすぐ会えるって思いながら寝たら、道があったんだ」


 俺はそれを辿ってきたらモモに会えた。


 ライガくんが言った。

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