3 お城へ

 広場を振り返ると、ライガくんは同じ場所でポツンとつっ立ったままだ。


 周りの子たちに聞いた。


「ねえ、オオカミさんはいいの?」


 すると、みんなが口々に言い始める。


「オオカミはいいんだ」

「オオカミは捨てられるからいいんだ」

「オオカミは中に入れないんだ」


 実際に捨てようとしたのは私だったので、何も言えなくなった。


 いいのかな、でもな。


 後ろを気にしつつも、みんなにワイワイと囲まれている間に城の階段前に辿り着く。


「モモちゃん、早く!」

「ま、待ってよ!」


 背中を押されながら真っ白い階段を登っていった。すると、赤ずきんが真っ赤なバラが沢山ついたドレスに変わっていく。


「うわあ……!」


 すごい、きれい! ドレスなんて着たことがなかった私は、興奮した。


 お城の階段を登り切った所に、上下が青と白の騎士のような服を着た、金髪の格好いい男の子が立っている。


 金髪の上に乗っているのは、金色の冠。まさかオウジくん?


「モモちゃん、ようこそ僕のお城へ」

「オウジくん?」

「そうだよ。やっと会えて嬉しいな」


 オウジくんは笑顔になると、手に持っていたティアラを私の頭の上に乗せる。


 オウジくんに思わず見惚みとれている私に、オウジくんはうやうやしくお辞儀をした。


「僕と踊ってくれませんか」


 キラキラした青い目は、まるで本物の王子様みたいだ。ううん、夢の世界では本物の王子様なんだ。


 オウジくんは完全にあがってしまった私の手を取ると、城の中へ連れて行ってくれた。頭の中から、ライガくんのことが薄れていく。


 中は広間になっていて、シャンデリアが輝いている。人形の楽隊が奏でる音楽は、明るくて華やかだ。


「私、踊れないよ」

「大丈夫、僕に任せて」


 格好いい王子様に「僕に任せて」なんて言われて微笑まれたら、心臓が破裂しちゃいそうだ。


 手を取り腰に手を添えられて、私とオウジくんは音楽に合わせて踊り始めた。


 もつれそうになる足を必死に動かす。転びそうになるとオウジくんは私を支えて、「大丈夫?」と笑いかけてくれた。


 夢なのに「夢みたい」と思った自分が、おかしくなる。


 人形たちは私たちを囲むようにして、くるくる踊る。


「ほらモモちゃん、笑って。楽しもうよ」

「う、うん」

「ずっとモモちゃんを独り占めしたかったんだ。夢みたいだ」


 オウジくんが気を使ってか沢山話しかけてくれたけど、私はついていくので精一杯だった。


 でも、何曲も踊り続けている内に、少しずつ踊れるようになってくる。


「うん、モモちゃんとっても上手だよ」

「えへ、ありがとう」


 少し気持ちに余裕が出てきたので、周りを見渡してみた。


 ふと思い出す。踊っている人形たちの中に、オオカミ人形のライガくんの姿はない。城に入れないって言われていたけど、どうしてだろう。


 ――私が捨てようとしちゃったから?


 ちゃんと誘ってあげればよかったと思っても、もう遅い。


 置いてきぼりを食らったようなライガくんの顔を思い出した途端、罪悪感で一杯になった。


 捨てようとしたのに自分ばっかり楽しんで、私は酷い持ち主だ。


 私の顔から笑みが消えてしまったのを、オウジくんは疲れたと勘違いしたらしい。


 踊りをやめると、「慣れないダンスは疲れた? 美味しいケーキと紅茶はいかが?」と聞いてくれた。


 人形たちがはしゃぐ。


「わあ、いいね! モモちゃん行こう!」

「う、うん」


 オウジくんと人形たちに囲まれながら、私はどんどん城の奥へと向かった。

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