2 夢の国
気が付くと、星空に白い立派なお城が浮かんで見える場所に立っていた。森にぐるりと囲まれた広場の中心だ。
空には色とりどりの花火が打ち上がり、風船がふわふわ飛んでいる。ここはどこ? と見渡すと、周りからへんてこな人たちが駆け寄ってきた。
「モモちゃん!」
真っ先にやってきて私を抱き締めたのは、うさぎの耳がついた少女だ。全身に短い毛が生えていて、ピンクの耳をしている。
カチューシャかなと思ったけど、うさぎの耳は嬉しそうにピコピコと動いていた。本物だ!
「モモちゃん、会いたかった! 私ミミよ!」
「え? ミミちゃんなの?」
よく見ると、ミミちゃんの特徴の、耳の中のハートの刺繍があった。本当にミミちゃんだ!
すると、他の人たちも私に抱きついてくる。犬の耳だったり鳥の羽根が背中から生えていたりしていて、でもどことなく見覚えのある子たちが、
「まさかペンギンのペンちゃん? こっちは柴犬のしいちゃんでしょ!」
「モモちゃん、大正解!」
すごい! 私、自分の人形と夢の中で会ってるんだ!
みんなとひと通り挨拶が終わって、そういえば王子様のオウジくんがいないなあと気付く。
もう一度ぐるりと広場を見渡すと、広間と深い森の境、暗い影の中に立っている人がいた。オウジくんじゃない。誰だろう、と目を
驚いた表情でこちらを食い入るように見ている。涼しげな顔をした格好いい男の子だ。同い年くらいかな。
頭から黒い耳が生えていて、頬には髭が左右それぞれに三本ずつ生えている。
「……モモって呼ばれた?」
男の子が口を開けると、ギザギザの牙が
でも、名前が出てこない。さっき捨てようとした罪悪感もあって「悪いなあ」と思いながらも、オオカミくんに近付きつつ尋ねる。
「ねえオオカミくん、あなたの名前はなに?」
オオカミくんは大きな目を更に大きくすると、自分を指差す。
「オオカミ? あ、本当だ」
自分がオオカミだって知らなかったみたいだ。手が丸っこい着ぐるみみたいなオオカミの手になっているのを見て、納得したらしい。
「……ライガだよ」
「ライガ?」
なんとなく聞き覚えがある気がする名前を聞き返すと、ライガと名乗った男の子はこくんと頷いた。
「赤ずきんさん、君の名前は……モモ? 春野モモ?」
「うん。そうだけど……赤ずきん?」
私も自分の姿を確認する。頭をふんわりと
本当だ、私、赤ずきんになってる!
「……モモ、本当にモモ……。ずっと会いたかった」
ライガくんが私に向かって遠慮がちに手を伸ばしてきた。もしかしてみんなと同じようにぎゅって抱き締めたいのかな? でも、ライガくんは他の子と違って見た目が人間に近い。
ぎゅっとしたらちょっと恥ずかしいと思って、戸惑った。
と、わらわらとミミちゃんや他の子たちが私を取り囲み、「あ」と手を伸ばしたままのライガくんから遠ざけてしまう。
「モモちゃん、お城に行く時間だよ!」
「モモちゃん、オウジくんが待ってるよ!」
人形たちにぐいぐいと背中を押されて、あれよあれよという間に大きくて立派なお城の門に連れて行かれてしまった。
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