第82話:酒呑童子

「結菜、大丈夫か?」


「はい、優希さんが受け止めてくれたので大丈夫です」


「清明さんは……駄目か……」


吹き飛ばされた拍子で鏡は砕けてしまっている。


「ほう……これが神の力か、身体に力が満ち満ちるわ!」


その言葉通り、魔力が溢れた酒呑童子は角を生やし、目の色を変え高笑いをする。


「酒呑さん! どうして!」


「はっ! 私は鬼だぞ! 貴様らを騙していたに決まっているだろ!!」


声に魔力を乗せて咆哮する、魔力の圧だけで身体が押し倒されそうになる。


「くっ……なんて魔力だよ!」


まるで暴風の中に立っている様だ、酒呑童子の鬼道の内という事もありあれだけの事が出来るのだろう。


「ぐっ……かはっ!? げほっげほっ……」


「結菜!? どうしたんだ?」


結菜が唐突に血を吐いた。


「ククク……優希に効かないのは予想外だがまぁ良い……」


「酒吞童子! 何をした!」


「何、鬼の瘴気という奴だよ! 鬼は古来から瘟鬼おんきと呼ばれる病魔を振りまく存在だ、鬼神と成った妾の力で瘴気を作り出しただけだよ!」


そう言って魔力を強めると結菜の咳に血が混じる。


「さぁ! 二人共! 我を早く倒さないと、このまま京の街を荒らしてやるぞ!!」


不敵な嗤いをしながら近づいて来る酒呑童子、でも……どこか違和感が凄い。


確証は持てない、だが短い時間だけど言葉を交わしてみて今の彼女がおかしい事はわかる。


「結菜!」


「優希さん……けほっ……」


結菜を抱え上げてから、魔装を発動して距離を取る、俺の魔力で包めば魔力で作られた瘴気は効かないだろう。


「大丈夫か?『——回復ヒール』」


「はい、大丈夫です……すみません、足を引っ張って……」


「大丈夫、これくらいどうって事無いよ。それよりも結菜もおかしいと思わないか?」


酒呑童子を見る、こちらに近づいて来る訳でも無く、こちらを複雑な表情で見て浮いているだけだ。


「はい、酒吞さん嘘をついてます、それで凄く無理してるのがわります。それにずっと心の中で私に『巻き込んでごめん、辛い思いをさせてごめん』って謝ってました」


「同化してた結菜が言うなら間違いないな」


「はい、私の事を助けるために一生懸命でそれでいてあの鬼道を作った自分に悔いてました。本人は隠したいみたいですけどね」


「ホント、隠すの下手だよな……」


どうにかしてあのツンデレを助けてあげたいな……。


「そうなのか……結菜、我儘を言って良いか?」


「奇遇ですね……私も優希さんに我儘を言うつもりでした」


二人で同じことを考えていたのだろう、互いの顔を見て笑い出す。


「そっか、それじゃあ一肌脱ぐか!」


「はい!」


結菜を魔力で覆いながら降りる。さて、他の皆は呼べないから頑張らないとな。


「結菜、これを使ってくれ」


予備の魔法砲台を呼び出す、性能としては今の結菜が持っている物には性能は及ばないけど今の結菜なら扱えるはずだ。


「わかりました、援護は任せて下さい!」


魔力を通した浮遊砲台が起動して結菜の周りを取り巻く。


「行くぞ結菜!」


駆け出しながら空間収納アイテムボックスから刀を取りだす、この間試作で打った刀である。


「行くぞ酒呑童子!」


「はっ! そんなぬるい太刀筋!」


躱そうとしないで棒立ちにになる、だがこちらも当てるつもりが無いので双方素振りになる。


「お主! 舐めてるのか!?」


「酒呑童子だって、切られに来るんじゃないか!」


「煩い! 私を早く切れ!! ぐっ……」


胸を押さえながら言う。


「やなこった! 結菜が救えと言ったからな!!」


「ぐぬぬ……さっそく尻に敷かれおって! ならば斬らせるまで!! 【ほむら】!」


神刀を目の前にかざすと大火球が現れる、肌を焦がす熱を感じる。


「させません『守りの砲台』、優希さんを助けて!」


目の前に現れる砲台が大火球を防ぐ、そこに別の火球が衝突して爆散する。


「ぐぅぅぅ!」


爆発の熱に耐えきれず顔を覆う酒呑童子、俺は防御魔法で守られているので無理して肉薄する。


「はっ!? 優希避けっ!?」


「危なっ!?」


明らかに本気の一撃を剣で弾く、今の一撃で打刀が折れ、折れた刀身が肌を裂く。


「「優希(さん)!?」」


「大丈夫! 少し切れただけだから」


跳び退いた酒呑童子がほっとした顔をする。


「なぁ酒呑童子……いや、酒吞。どうしてこんな事をするんだ?」


再度、空間収納アイテムボックスから刀を取りだす。


「私は鬼だぞ! 人を傷付たくないと思っていても、私が原因で皆が、誰かが傷つく! 結菜を見ろ、若い身体であれだけの負担を与えてしまった! 優希が居なかったら命すら無かった! だからこんな呪われた魂を持った存在など消えてしまえば良い!!」


癇癪を起した様に騒ぐ酒吞、涙を溢れさせ泣きながら刀を振り回している。


「だったら、人を傷付けない存在になって下さい! 酒吞さんは私を心配してくれて、守ってくれたでしょ!! そんな優しい人が救われないのは嫌なんです!!」


「無理だ! 今だって茨木の声が耳から離れないんだ!! 私の理性が残ってる内に早く!」


(茨木童子の声……まさか!?)


狐の窓で覗く、魂を見ると酒吞の心臓に楔が一つ刺さっているそこから身体に茨が巡りつつある、それが茨木童子の鬼道だろう。


それを確認した後は、一度下がり結菜の元に行く。


「結菜、これを。儀式用のものだけど祓いの儀式用に神様が作ってくれたとっておきだ、これを酒吞の心臓部分に突き立てて、式神契約の呪文を」


「これをですか? 式神契約は……そういう事ですね……」


わかったかのように頷く結菜。


「あぁ、露払いは俺がするから。任せた」


「はい!」


「じゃあ一直線に、突破しよう!」


二人で走り出す、迫りくる攻撃を結菜が防ぎ、剣戟を俺が弾く、その間も隙を伺う。


「どうしてだ! どうして本気で来ない! お主なら一撃だろ!」


半泣きの酒吞を前に攻防を繰り返す。


「うるさいなぁ……俺が助けたいから助けるんだよ! 酒吞は黙って身を委ねろ!」


そう言うと酒吞がハッとした顔をする。


「そうか、そういう奴だったなお主は!」


酒吞の猛攻を躱しながら接近する。


「優希さん!」


俺の後を駆ける結菜が魔力を高める。


「全く……」


「大人しくしといてくれよ!! スサノオちゃん!!」


『はい! 待ってました優希様!』


草薙剣を呼び出して漂う魔力の羽衣と環を斬り刻む、これで龍脈からは力を借りれないだろう。


「はぁぁぁぁあ!!」


俺の背を踏み台にして結菜が跳ぶ、矛先鈴ほこさきすずを酒吞の胸に突き立てた。


「恩人を私は見捨てません!!『土御門 結菜の名において、天地の理に従い、今ここに契約を結ぶ。八卦・五行の力を持って、汝の力を我が力としたまえ』」


胸部を刺された酒吞から血が溢れる、だがその顔は笑みを浮かべている。


「全く……夫婦揃って大馬鹿者だな……わかった、その契約、受け入れるよ……」


――パキンッ!


何かが砕けた音の後、二人は目も眩むほどの光に包まれた。


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作者です。

次回7章エピローグです。

8章は7章からの地続きです(訳:長くなりそうなので分けました)。


【第12回ネット小説大賞】二次選考通過してました!!


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