第80話:分け御霊の術①

「さて、ここいらで良いぞ、とは言っても山頂だがな……」


到着した場所は大江山山頂、案内札には千丈ヶ嶽と書いてある。


「ここは昔、妾達が住んでいた所さ……懐かしいな……」


ここではない遠いどこかを見ている様な目をする。


「さて、感傷に浸るのも終わりにして始めようか!」


未練を断ち切るの様に、明るく言う。


「それで、ここで何をするんだ?」


「それはな、これだよ」


酒吞童子が指を鳴らすと酒呑童子の周囲に魔力が集まって来る、そして結菜が魔法鎧と合わさり羽衣の様な形に変化する。


「出てこい【鬼國鏡界伏魔宮きこくきょうかいふくまぐう】!」


ダンジョンと酒呑童子結菜の魔力が融合していく、そのまま合わさり以前見た、茨木童子の時と同じくダンジョンを形成していく。


「さて……呼び出すのは我が敵の一人! 現れよ安倍晴明!」


龍脈から魔力が形成され、人の形になる、袴に狩衣に烏帽子を身に着けた人が現れる。


「久しいな清明よ」


「何事かと思ったら酒呑童子か、お主も私も死んだはずじゃ?」


「そうだよ、だが貴様は用心してこ奴を残しておっただろう?」


小さな鏡を取りだす酒吞童子、アレって結菜の家の蔵で見たな。


「まさか、気付くとはな……お主に鬼道を教えたのは失敗だったかな?」


「はっ! よく言うわ、貴様こそ頼光に調伏術やら神刀を渡して妾達を手にかけた癖に」


「仕方なかろう、人の世の安寧をもたらすには強すぎる力は仇となるのだ」


「ほう、だが強すぎる力は時に旗頭となり必要となる。そこな覇者を見ればわかるだろう」


安倍晴明がこちらを見てから、不思議な印を組んで指の間から覗いて来る。


「何だコイツ……本当に人間か? 全盛期の酒吞や頼光とは比べ物にはならない程強いなんて……化物か!?」


「あっ、はい……すみません……」


「くっ……しかもコイツ神気まで纏っているなんて、現人神か!?」


なんか一人で感情がころころ変わるなぁ……。


「あーっと……一応一般人ですよ……?」


身内に神様は居るけど。


「クククわかったか? という事で、清明よお主の秘儀を教えろ」


「秘儀……どれの事だ?」


「分け御霊だ、今はそれが必要でな。こ奴の嫁であるこの身体が厄介な事に巻き込まれてるのだ」


「ふむ……そういう事か……」


手の間から覗き込みながら言う安倍晴明、アレ便利そうだな……後で教えて貰えないかな?


「そこな青年、貴殿の名は?」


「えっと……上凪優希かみなぎゆうきです……」


名前を教えると溜息をつかれる、どうしたんだろう?


「はぁ……貴殿はもう少し警戒をするべきだ、名を教えるという事は自身の魂を縛る口実を相手に与えるのだぞ……」


そう言われてみればそうだな、隷属魔法とか名前を教えてだもんな……。


「まぁ、貴殿はそう言った所も人徳なのだろうな……この鬼が誑し込まれる程だしな」


「んなぁ!? 妾は誑し込まれてはいないぞ!!」


顔を赤くして、語気を強める酒呑童子、それを見てくすくすと笑う安倍晴明。


「酒吞、お主つかった事も無い〝妾〟なぞという己の呼び名を使っているだろ。それに酒好きのお前が酒を一滴も飲んでいない、その体の事が余程心配なんだな」


笑いながら指摘する安倍晴明、それを聞いて酒呑童子の顔がどんどん赤くなる。


「くっ! いいから優希にさっさと術を教えるんだ!!」


「わかった……だが扱う事はかなり難しいぞ」


「わかりました、それとさっきから手の間を覗いてたやつも教えて欲しいのですが?」


教えてもらいたいし先に聞いてしまおう。


「手の間を覗く? あぁ〝狐窓きつねのまど〟の事か? そうだな、魂を見る術故に分け御霊もやりやすくなるかもしれないな」


あの技、狐の窓って言うんだ、鑑定と同じかと思ったら違うんだな。


「この術は元来、魂の形を見る術でな。それが人の手を経る事で人に化けた妖怪を見抜く技として定着したんだ。まぁ陰陽師も妖を見る為に使用していたからな」


「そうなんですね……やり方は?」


「ただ私の後に続いて印を刻むだけだ」


ゆっくり見せてくれる安倍晴明、それを真似しながら何度か挑戦する。


「……いやに呑み込みが早いな」


「そう……です……かっ! 出来た!」


「流石だな……」


「これはたまげた……」


二人が驚いたような声を上げる、酒吞童子の方を狐の窓から覗くと、確かに結菜の身体を覆ってる朱色の光と藍色の光が見える。


「よし、習得出来たら次は、【分け御霊の術】だ、この術は文字通り魂を分ける事をいう」


「それって危険性は無いんですか?」


「一応はある、魂も分けられた直後は自然と弱まる。それ故に回復するまで無理は出来ないという事だ」


「回復ですか……それってどのくらいです?」


「術者や分けられる魂の持ち主による、1日~2日で回復する者も居れば、数年かけて回復する者も居る。陰陽師や魂が強い者はそれだけ回復も早く、疲弊した魂程回復が遅いという訳だ」


疲れてる時の風邪が長引くみたいな感じか……。


「話を続けるぞ、【分け御霊の術】には3つの要素が必要だ、一つ目は術者、次に分ける魂、最後に入れ物だ。入れ物は基本【鏡】や【刀剣】が殆どで、【岩】や【神木】といったパターンもあるぞ」


「そうなんですね……人間の肉体だとどうなんですか?」


「他者の肉体はまず魂が合わん、双子の肉体などは試したことが無い、そもそもあの時代双子が生まれる事は数少なかったしな」


「そうなんですね……じゃあ同じ肉体なら?」


「……何を言っているんだ? まさか指や腕を斬り落とすとでも言うのか?」


「あー似たような感じですね……」


「出来はするが……そうする意味はほぼ無いぞ? なにせ治らないのだから意味が無いだろう」


「あーあはは……大丈夫ですね、治りますし」


「……はぁ?」


変な顔をされた、まぁ切った部位が治るとか言われてもわからないだろうしな……。


「それで、入れ物にはどうやって入れるんですか?」


「あぁ、それは呪文を唱える必要がある。『天地の理よ、数多輝く天の理よ、御魂を分かち、陰陽の理を持ってここに現れよ――双魂ノ儀』これで分けられるぞ」


「わかりました、挑戦してみるか、何か良いもの無いかなぁ……」


「出来れば、自身が良く身に着けていた物や長く大切にした物が良いぞ。形代とかでも良いが、馴染まなかったり術が解除されると魂は戻ってくるからな」


「そうなんですね、じゃあ昔から持ってるの物のが良いか……」


空間収納アイテムボックスを漁りながら考える。すると昔、耀が作ってくれた人形モタンカが出て来た。


「丁度良いな、これならいけるかも」


「人形か……良いのではないか? 人形は魂の入れ物にも丁度いい」


「そうなんですね、じゃあ……『天地の理よ、数多輝く星の理よ、御魂を分かち、陰陽の理を持ってここに現れよ――双魂ノ儀』!」


「優希!」


その瞬間ガクッと力が抜ける、倒れる程では無かったが、慌てた酒吞童子が俺を支える……今は結菜か。そして体の中からいろいろなものがごそっと抜けた感じがしている。


「まさか……覚えが良いと思ったが、一度で成功させるとは……」


「あはは……、良かった……。二人もありがとう、助かったよ」


「えへへ……ありがとうございます。酒吞さんはちょっとむくれてますけど」


「むくれてなどおらんわ!」


ツンとした酒呑童子に思わず二人で笑うのだった。



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作者です。

長くなったので分割します!

ちなみにモタンカはウクライナのお守り人形です。耀の母はウクライナ人ですので。


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