第79話:酒呑童子の過去

「さて、優希殿。妾は一度眠る故、後は任せたぞ、生娘である故優しくな……」


一条さんを送った後、酒呑童子に指示された通り儀式の様相にした土御門家の一室で俺達は向き合っていた。


「そ、それではよろしくお願いいたします!」


「こちらこそ、精一杯優しくするね」


お互い白い襦袢を着た状態で、神酒を同じ盃で飲む。その後は俺が口に含み口移しで神酒を結菜に飲ませる。


「……はぁ……何でしょう、このお酒凄く美味しいです……」


「確かに美味しいな……」


「……んくっ……はぁ……もっとぉ……」


お酒の影響なのか上気している結菜の艶っぽさが増してくる。


「優希さん、私嬉しいです。こうして貴方の事を受け入れれるのが……」


「あぁ、俺もだ。結菜大切にするよ……」


◇◆◇◆

それからは結菜の痛みを和らげるために回復魔法を使ってたり、盛り上がり過ぎて気付いたころには深夜になっていた。


「……ん? 結菜?」


もぞもぞと隣で動く感触がして顔を向ける。


「あのなぁ……盛り過ぎだぞ……はぁ、胎が重くて仕方ない……」


酒呑童子が起き上がる、確かにぶっ通しだったので互いの体が凄い事になっている。


「妾は清めて来る、終えたらお主も身を清めよ。儀式へ向かうぞ」


ひょこひょこと歩きながら部屋を出ようとする酒呑童子。


「わかった、でもどこに?」


「そんなの決まっておろう……【大江山】じゃ」


そう言って部屋を出て行った。



◇◆◇◆

「それじゃあ皆、朝までには戻るよ」


「ふぁぁぁ……わかったわ……行ってらっしゃい……Zzz……」


半分寝ている耀を筆頭に皆が見送ってくれる。


「それでは優希殿、頼んだぞ」


「あぁ」


結菜を抱えて魔法で浮かび上がり地図アプリを確認する、画面には大江山へのルートが表示されている。


「そういえば酒呑童子、どうしてお前は俺達に協力してくれるんだ?」


腕の中に居る酒呑童子に声をかける、しばらくの沈黙の後口を開く。


「色々思惑はあるのだが、その前に少しお主にも有益な昔話をしようか。妾と一部の鬼達は元々この世界の人間では無いのだ、今でいう異世界という場所から流れ着いた存在でな。まぁ、殆どは歴史の間に消えて行ったがな……」


遠い目をする酒吞童子、確かに鬼と呼ばれる存在が異世界人、特に獣人の様な身体的な特徴のある人間ならば違う容姿で描かれているのも納得だ。


「そんな中、各地に根付いた異世界人とこちらの世界の人の間に子供が生まれ始める。茨木や配下の鬼達の殆どが人間と交わって生まれた二代目、三代目の者達なのだよ」


「そうだったんだ……でもどうして倒される対象に?」


「それは、少し物悲しい話になるな……お主も知っておるだろう、源頼光みなもとのよりみつという男を」


「あぁ、ソシャゲでお世話になったあの人ね」


「いや……実在の人物の方なのだが……。まぁそ奴、実は半分鬼であったのだよ」


それって、とんでもない事実なんですが……。


「マジか……でも頼光はどうして片親である存在の鬼退治を?」


「それはあ奴の生まれも関係しておってな……。あ奴の母親は鬼の中でも相当美人でな、角も現れなかった種族の為かぱっと見ただの人だった、それもあってか頼光の父に見初められたのだよ。だが美人というのは同時に問題を生む存在でもあった、それでいて鬼との混血児は一般人よりも力が強くなる、武家が台頭してきた時代。喉から手が出る程欲しい存在であった……」


優秀な子供が生まれるとなれば権力者はこぞって欲しい存在となるだろうし、そうなると自然と政治闘争に巻き込まれたりするもんな……。


「それ故、あ奴の母親はあ奴を生んですぐに、都に戻った。その道中で政敵に待ち伏せされてな……その場で命を散らしたんだ。その後、何も知らない頼光は大江山で育った、生誕地や幼少期が不明な理由はそこにあるんだ」


「なんか凄い事実を暴露されてるんだけど……話しても良いのか?」


「そうだねぇ……まぁ、話しても誰も信じないんじゃないかな?」


「確かに、今の時代そう言っても『何言ってんだこいつ』と言われて終わりだもんなぁ……」


「ははは、そうだねぇ……それから十数年後、父親によって母の死と自分の存在が理由と知るんだ、あの時はあ奴も酷く荒れてな、説得するのに山一つ禿山になるところだったわ」


「そうだったんだ……でも、どうして酒呑童子達は大江山を根城に?」


「逆だよ、元々私達は大江山で生活をしていたんだ。三上ヶ嶽の鬼と呼ばれる最初に来た異世界人も大江山で生活してたし。私もこちらの世界に流れ着いた後は各地を転々として大江山の皆に受け入れられたんだ」


「つまり、大江山は異世界人にとって安心できる場所だったんだね……」


そう言うと、目を開き笑い出す。


「ははっ! そうだな、我々にとっては豪華な屋敷も無ければ些末な家だったが皆安心して時を過ごしていたな……」


遠い目をする酒吞童子、凄く物寂しそうな顔をしている。


「そして、あ奴は様変わりした姿を見せた。自らと同じく異世界人の血が入った者達を連れて凄く立派になって帰って来たよ、その時は嬉しかったなぁ……。出世して、沢山の友と仲間を連れて、飲めや騒げやの大宴会だった……だったんだ……」


静かに涙を流す酒吞童子、俺もゲーム由来でその後を知ってる分、何も言えなくなる。


「さぁ、湿っぽい話は終わりだ、すまなかったな」


ぐしぐしと涙を拭う酒吞童子、こうして見ると悪い鬼の頭領というより鬼達を守る親の様に見えて来る。


「いいや、酒呑童子の事が知れて良かったよ。話に聞くのとは違って、ずっといい奴だって事もわかったしな」


「ははは、お主、妾もたらす気か」


「そんなつもりは無いんだけどなぁ……」


「全く、そんな口の軽さだと女で苦労……してたな……」


「ははっ、苦労はしてないよ。皆いい人だし俺が助けたいから助けてるんだ」


「そうか……さぁ着いたぞ、さっさと結菜を助けようではないか!」


大江山の入り口に到着した俺達は、そのまま山へと入っていくのだった。



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作者です。


【第12回ネット小説大賞】二次選考通過してました!!


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