第61話:豊穣神③

それから壮絶な戦いを経て一ノ峰に戻る、ついでにメアリーもついてきた。


「た、ただいま……ゴメン、遅くなった」


「あら、優希早かったわね」


しれっとしている耀、まるでこうなる事を予見してた様だ。


「あー……おにーちゃん、大丈夫?」


「うん、まぁ身体は大丈夫……」


例の車から出た後、皆と目も合わせらない程の気まずさが凄かったけど……。


「緊急事態だからねぇ……ドンマイッ」


「あはは……優希おにーさん気を落とさない下さい」


「ありがとう春華……」


春華に慰められながら状況を確認する、彼女は動いてらずそのままの様だ。


「状況の変化は?」


「ん、相手からは何も無し。多分魔力が安定してない」


「それで、その間にこれが届いたわ」


新しい矢文を渡してくる。


「えっと……流石に時節の挨拶は省略されてるか。何々『準備が出来たら人間でいう所の人格をインストールしますので、皆さんの陣器で攻撃を叩き込んで分離させてほしいのです』だって」


「それじゃあ鈴香の到着次第だね」


そう言った直後山道から、鈴香が飛び出してきた。


「お待たせしました!」


「いやいや、ナイスタイミングだよ」


先程の説明を鈴香へ伝える、ついでに体調に変化が無いか聞くと少し影響が出てるようなので色々と回復をする。


「……はふぅ……わかりました。優希さんの攻撃に合わせますね」


「あぁ、それじゃあ皆行くよ。ツクヨミさん頼む!」


虚空に声を投げると、空から金色の矢で女性が射抜かれる。


「……システム再起動、疑似神格『宇迦之御魂神』との接続開始」


女性の口から言葉が漏れる、それと同時に魔力が吹き荒れる。


「くぅ……凄い魔力……」


「ん、私の防御もここから押し出されそう……」


防御魔法を展開してるユフィがじりじりと下がって来る、破られる気配は全くないけど単純にここから押し出すように感じる。


「手伝うよ、ユフィ!」


背中を支えつつ手を重ねる、魔力を浸透させて防御魔法の強度を増す、地面に根差す様に魔力でガッチリ抑え込む。


「ありがとう、たすかった」


「見て下さい!」


「狐の尻尾が!」


魔力で狐の尾が顕現する、魔力の結晶の様に吹き荒れる魔力がそこに収まっていく。


「旦那様、私と冬華さんで尾を射抜きまス!」


「流石にあれは放置できないからね!」


「私も手伝うわ! 座標固定!」


「行きまス!」「行くよ!」


二人の放った弾丸と矢が耀の魔法で転移する、そして生えた尾を削り取るように吹き飛ばす。


「優希!」


「任せろ!」


耀の空間転移で女性の正面に飛ばされる。


「はぁぁぁぁぁ!!」


胸に刀を突き立てる、溢れ出る魔力に耐えながら後続を待つ。


「優希お兄さん! はぁ!!」


「優希さん!!」


「はぁぁぁぁ! ご主人様!」


「お兄ちゃん!」


「——! —————!!」


俺と春華・鈴香・ユキ・冬華の攻撃が次々と入る、そして声にならない悲鳴を上げた女性から何かが飛び出してきた。



◇◆◇◆

「いててて……皆大丈夫?」


飛び出て来たものに吹き飛ばされた俺は皆の様子を確認する。


「大丈夫です、受け身も取れましたし」


立ち上がった鈴香が言う。


「私も春華も大丈夫だよ~」


春華を受け止めたであろう冬華がこっちを向いて手を振る、春華も大丈夫そうだ。


「大丈夫ですかユキちゃン」


「驚きました……あっ、大丈夫ですっ!」


尻餅をついていたユキをメアリーが立たせて裾を払う、それを確認した後、腕の中を見ると先程の女性が小さくなってすっぽり収まっていた。


「えっと……優希、それは?」


「わかんない、飛び出て来たのが直撃しただけなんだけど……」


声をかけて来た耀に返す、とは言っても無傷っぽいし大丈夫かな?


「さっきの女性の形してるよね……」


「そうだね、それに……」


目の前にあるのは一ノ峰にあるお社を取り込んだ大木だ。


「これは……」


「ん、さっきの瞬間この子が分離したらあの大木が突如生えて来た」


土埃を払いながらユフィが声をかけて来た。


「ユフィ、大丈夫だった?」


「大丈夫、私は耀と一緒に跳び退いたから」


「そっか、良かった」


「うっ……うぅ……はっくしょん!!!」


むずむずとした後、大きなくしゃみをした少女、そして目を開く。


「あっ、すまない!——ぐえっつ」


ふわりと浮かび上がろうとして、墜落した。



◇◆◇◆

「はぁぁぁぁぁ!!」


正面にある大木に刀を突き立てる、流石に今のは手ごたえがあったし……斬れてるは……ず……。


「マジか……」


刀傷のついた大木はみるみるうちに修復し元に戻る、とんでもない修復力だ。


「優希おにーさんでもダメかぁ……」


冬華の落胆した声が響く、俺達が居るのは一ノ峰のお社を取り込んだ大木の樹洞じゅどうの中だ。


「すまぬ上凪殿……妾の力が暴れてしまい……」


ぬいぐるみサイズになった少女、自身を『宇迦御魂神ウカノミタマノカミ』と称する少女が申し訳無さそうな顔をする。


「うーん、これは……どうしようか?」


問題は一応解消された、稲荷山のダンジョン化は終わり、力の殆どは分離した疑似神の『宇迦御魂神』に戻って来た。


そしてこの大木なのだが、ダンジョン発生時に一時的に増えた膨大な魔力、これは龍脈から得た魔力らしい。それを不必要に外に漏らさない様に半身と共に大木に埋め込んだとの事だ。


「あ、今ツクヨミ様から連絡が……はい、はい、畏まりました、優希様にお伝えします」


ツクヨミさんから連絡が来たようだ、小さな体でぺこぺこ頭を下げている。


「優希様、ツクヨミ様から言伝が……『私は今すぐにここを離れる事が出来ませんので、明日みょうにち私の弟神である素戔嗚がそちらに向かいますので、それと協力してそちらの大木を伐って欲しい』との事です」


天照大御神アマテラスノオオミカミ月読尊ツクヨミノミコトと来て素戔嗚尊スサノオノミコトと来たかぁ……。


「わかった……じゃあ今日は一旦山の下に降りようか……ウカノミタマさんはどうします?」


鈴香に抱え上げられた『宇迦御魂神』さんに声をかける。


「妾は……今日はこちらで過ごします、解析もしたいので。それに、何かありましても半日は抑える事が出来ます故」


「わかった、ダンジョン化が解けたとはいえ、前例のないダンジョンだったしいったん下に行くね。それと俺達も今日は伏見稲荷大社の社務所を借りて休んでるから、何かあったらこれを鳴らしてね」


防犯ブザーの魔道具を渡す、これを鳴らせば位置が何かあっても特定できるし問題無いだろう。


「わかり申した、重ねてお詫び申し上げます」


そう言って、三つ指をついてお辞儀をする。


「気にしないで良いよ、困ってるなら助けないと」


「そうそう、優希の性分だし気にしないで良いわよ」


「優希おにーさんですしね」


「おにーさんだもんねぇ~」


「優希さんですし」


「ん、優希だし」


「ご主人様」「ですからね~」


皆の言葉で笑いが漏れる、最後の最後にこうして笑えるなら十分だ。


「それじゃあ、また明日」


そう挨拶をして山を下るのだった。



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作者です。


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