第45話:鞍馬山のダンジョン

という訳で、春休み初日の早朝に俺は1人電車に乗っていた。


「次は、鞍馬、終点です――」


車内にアナウンスが響き、車内の人が動き始める。


俺が現在調査に向かってるのは、鞍馬寺や貴船神社を擁する鞍馬山だ。


「しかし……おかしなモンスターって何だろう?」


やっぱり義経の逸話に出てくるような、鞍馬天狗とかなのかな?


駅に到着して鞍馬寺への道を行く、大きな天狗の像や仁王門をくぐり山道へ進む。


「ふぅ……そこそこ疲れるな……優羽にはきついかも……」


元々観光で来るつもりだったし、一度登っておいて正解だ。


「山の上という事もあるけど、身体強化に甘え過ぎかなぁ……」


昇りきって本堂に到着すると、山伏の格好をした人が待っていた。


「やぁ上凪殿!! 待っていたぞ!」


溌剌としている一条さん、というか道案内って一条さんなの?


「あれ? 一条さん? どうしてここに?」


「それは私の方からご説明を……」


いつの間にか横に居た、ご年配の僧侶が口を開く。


事の発端は、約1週間前に遡る。鞍馬寺に務めるこのご年配の僧侶、鞍馬寺の貫主(住職)さんの信楽しがらきさんが早朝の掃除をしていると寺の屋根に天狗が現れたそうだ。


「その天狗が言ったのです、武人を連れてこいと。さもなくばこの山は我が魔王クマーラによって死地となろう」


「ほう、クマーラとな。鞍馬寺に相応しいでは無いか」


頷く一条さん、クマーラって何だ?


「あのぉ……クマーラって何ですか?」


そう聞くと、二人が目を丸くする。


「そうか、上凪殿は一般人だったな。クマーラとはヒンドゥー教に出て来る賢人であるブラフマーから生まれた存在の事で【サナト・クマーラ】というのが正しいな」


「あれ? でも鞍馬寺って日本の宗教ですよね?」


良くは知らないけど、天狗とか義経とか祀ってるんじゃ?


「そうですな、元々は天台宗でしたが昔に独立して、今は『鞍馬山尊天くらまやまそんてん』様を主とした【鞍馬弘教】という新興の宗教です。その『鞍馬山尊天』様は千手観音菩薩様・毘沙門天様・護法魔王尊ごほうまおうそん様の【三尊】を一つにまとめたものです」


「それで、そのうちの一つ【護法魔王尊】は先程説明した【サナト・クマーラ】と同一視されているのだ。それ故そのモンスターがクマーラと名乗るのであれば相応しいなという事なのだ」


「そうなんですね、知らなかったです」


「まぁお寺と聞くと、皆さん仏教を想像しますからね」


ほっほと笑う信楽さん。


「それでな、我々にも【鞍馬弘教】の方から相談があってね。武人といえば【七条家】の当主かと思ったんだが、昨日にそれを上回る武人をこの目で見たからな」


七条家の当主って、あのお爺さんか……あの人は武人だよなぁ……


「わかりました、あの人みたいな武人かどうかわからないですけど、俺が様子を見て来ますよ」


「すまないのう、本当は私が案内をしようと思ってたんじゃが……昨晩腰を痛めてな……」


そう言って腰を擦る設楽さん。


「そうなんですか? じゃあ『——上級回復ハイヒール』」


そう言って回復魔法で設楽さんを包む、膝も悪そうだしついでに治しちゃえ。


「おぉ!? 膝と腰が楽に!?」


「回復魔法です。でも、年齢が巻き戻ってる訳ではないので無理は禁物ですよ」


「ありがとう、お礼に戻って来たら体の温まる物を用意しておくよ」


そういってくしゃりと笑う設楽さん、今朝は丁度いい事に寒いし、大歓迎だ。


「わかりました、楽しみにしておきます!」


そうして鞍馬寺を出発した。



◇◆◇◆

という訳で、一条さんの案内で『鞍馬寺奥の院・魔王殿』へとやって来た。


「さて、ここが魔王殿だね。恐らく【護法魔王尊】に由来のある場所だし、ここで良いと思うんだけどね」


そう一条さんが言ったタイミングで、上から黒い影が落ちて来た。


「貴殿達が、我の求める武人か?」


目の前に立ち問いかけて来る、ザ・天狗。その身の丈は優に3メートルを超えている、鎧を纏い烏帽子を被った鎌倉武士の様ないで立ちだ。


「えっと、俺が呼ばれた武人だけど……」


固まってる一条さんを押しのけて前に立つ、見上げてるせいか首が痛くなる。


「ほう、その身に纏うは異邦の力か……だがそれを実に見事に御している、素晴らしい……」


ニヤリと笑う、天狗さん。というかこの天狗はモンスターなのか?


「なぁ、こうして会話ができるから少し聞きたいのだけど。大丈夫かな?」


「ほう、何だ強き人よ」


顎に手を当て笑う天狗さん。


「えっと……君には人を殺す意志とかあるの? というか何者?」


「ふむ、その質問は我には難しいな。我は強き武人と相対したいのだ、そして我はいつの間にかここに居た」


目を閉じてうむうむと唸る天狗さん。


「ふむ……『——鑑定』」


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名前:名無し 性別:雄 年齢:1500歳

状態:ダンジョン ジョブ:ダンジョンの主

備考:ひょんなことから生まれた存在、存在そのものがダンジョンでありダンジョンの主を兼任している。

名前の一つに『鞍馬天狗』や『鬼一法眼きいちほうげん』という名前がある。

妖怪の一種である天狗である。

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「へぇ……鬼一法眼って呼ばれてるんだ」


「ほう、その名を知ってるとは。神通力でも使ったか?」


「まぁそんなところだね。それで天狗さんは武人と会ってどうしたいの?」


「無論、死合いだ!」


にっかりと笑いながら答えるのだった。


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作者です。

遅くなり申したぁ!!


【ファンタジー長編コンテスト】中間選考突破してました!!

読者の皆様ありがとうございます!!


236万5000PV超えました!!ありがとうございます!

毎日、そしてここまで読んでいただける方、ありがとうございます!

読んでいただける方には感謝しかありませんが!!


♡も4万5700超えました!!

毎日ありがとうございます!!

☆も1331になりました、1330超えました!ありがとうございます!

感想も新規ブクマもありがとうございます!!

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