第29話:俺と、結婚して下さい【改稿版】

「優希!!」


 その声と共に病室へ駆け込んできた耀、そしてそのまま抱きつかれてしまった。


 なんかさっき見た覚えがあるぞこの光景……デジャヴかな?


「大丈夫?元気?熱は無い?ご飯食べれた?体拭こうか?トイレは行けてる?」


 矢継ぎ早に問いかけて来る、そんなに抱き付かれててたら話し辛い……。


「大丈夫! 大丈夫だから! そんなに引っ付くな! みんな見てる!」

「へ?」


 皆の方を指差しながら言うと、ギギギと音しそうな動きで耀は振り返る。


 それからいそいそと姿勢と服を正し、耀はベッドの上で正座する。


「はじめまして、私は水城耀と申します。優希の幼馴染をやらせてもらってます」

「こちらこそはじめまして。私は小鳥遊姫華、この二人……春華と冬華の母親をやっています。そしてこちらは夫の鷲司です、こちらは娘二人の幼馴染の紡巴ちゃんです」


 姫華さんの紹介に、一同頭を下げる。


「さて、お時間もそろそろお暇しましょうか。面会時間も残り少ないですし、優希君は水城さんと積もる話もあるでしょうから」


「えー、もうちょっとお話したいんだけどな~」

「冬華? 優希さんは目覚めたばかりですよ、あまり無理させてはいけません、わかりましたか?」


 最後は冷えるような口調で姫華さんが言うと、冬華は顔を青くしてそそくさと立ち上がる、凄いな……俺も一瞬背筋がゾクッとしたぞ……。


 そうして釘を刺された冬華は「じゃあ!優希さん!あの事考えといてね!バイバイ!」と言うと逃げるように病室から出て行った。


「まったく…冬華は…それでは優希さんまた来ますね、それと私たちの病室は二つほど右隣です。それと、寂しくなったら夜来ても良いです♪ それではまた……」


 いたずらっ子の様な笑みで挨拶し病室を出て行く春華、耀からの視線が痛いんだけど……。


「それでは、私たちも行きましょうか鷲司さん、巴ちゃん」

「はい、姫華さん!」

 

 元気に頷く巴ちゃんと、無言で頷く鷲司さん。

 そうして病室を出る間際に巴ちゃんが「また来ていいですか?」ときいて来たので「いつでもいいよ」と返すとすごく喜んだ様子で病室を出て行った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 そうして二人きりになった病室、備え付けの壁掛け時計の音だけが響いていた。


(いつまでも黙っている訳にはいかないよなぁ……)


 気まずさからか頭を掻きながら、正面に座る耀へ口を開く……。


「あー耀……言っておかないといけないことがあるんだ。さっき来てた中の桜色と空色の髪の子居たじゃん?」

「うん、可愛かったよね。それがどうしたの?」

「好きと言われた、結婚して欲しいとも……」

「へー良かったじゃん。それで優希は私にそれを報告してどうするの?」


 耀の声が冷たくなる、そりゃいきなりこんなこと言われたらドン引きだよな。


「断ったよ、でももう一度考えて欲しいと二人のお父さんから言われた……」

「まぁ、そうだよね」

「だから答えは出すつもりだ」

「うん、それが良いと思う〝なあなあ〟で放置されるのが一番つらいからさ」

「うっ、そう……だよね……ごめん……」


(俺は今何を言ってるんだ? どうして耀にそんな事報告してるんだ!?)


 そしてまた沈黙が訪れる……言いたい事は別にあるのに、上手く考えが纏まらない。


「あの……えっと……それとは別に、えっと……その……俺のジョブについてなんだけど……」

「知ってる……とゆうより、神様から全部聞いたよ。優希が異世界に行ってた事、私が魔法を使える理由、それと優希の【英雄】についての事と[英雄色ヲ好厶]についても」


 えぇ……何してくれてるんですか神様。


「それで優希はどうしたいの?」

「えっ?」

「優希はその二人の事は好きなの?」

「えっと……それは……」


 好きか嫌いかと聞かれると、好意を持たれてる事に悪い気持ちでは無い。


「えっと……好意を持たれてる事は嫌じゃない……」

「じゃあ私は?」

「えっ?」

「私は好きだよ、優希の事」

「えっ? えぇ!?」


 考える、俺は……耀とどうしたい?


 俺は耀が好きだ、陳腐だが耀の為になら世界だって相手に出来る、でもその為には力が足りない。

 それに……向こうの世界で味わった、大切な誰かを、自分の臆病なんかで失うなんてもう嫌だ!


「それで優希はどうしたいの?」


「俺は……赦されるならこの能力を十全に使いたい、今回の件もどこかで驕りがあったんだよ、世界を救った俺なら余裕で勝てるってそう思ってた、それがこのザマだった」


 包帯まみれの手足を見る。



「でもそれなら無理にハーレムを作らなくても良いじゃん、私だって強くなるために頑張るよ?」

「うん、俺だってこのままじゃ居ようと思わないし更に強くなろうと思う。でもそれじゃ駄目なんだよ、だって……それじゃあ絶対に、耀を守れないんだ……」


 そこで区切ってしっかりと耀の顔を見る、十数年と隣に居た大切な人の顔を。


「だからもし、耀が赦してくれるなら俺の一番になってくれないか?」


 顔が熱くなってくる、ついに言ってしまった……。


「優希それって……」


 言った言葉を理解したのか、耀の顔にも熱が伝播する。


「俺と、結婚して下さい」


 その言葉に、耀は一度顔を下げる、そして再び顔を上げると涙を流しながら破顔する。


「私で良かったら、喜んで優希のお嫁さんにして下さい!」


 そう言って飛び込んでくる耀を受け止め見つめあう。


「ふふっ……」

「あはは……」


 そして二人して、笑いが零れ始めた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 それからひとしきり二人で笑いあった後、離れていた間の事に話題がシフトしていく。


 鳳さんが耀を探索者にする為耀の両親まで行った事、耀の両親がエージェントに狙われた事。


「私も里菜さんと一緒にスパイ映画みたいな事して楽しかったよ」

「マジか……凄い事やってたんだなぁ……」

「うん、凄かったよ、色んなホテルを転々としたり。カーチェイスしたり」

「カーチェイス!?」


 たははと笑う耀、なんか凄い危ない事してたじゃん!?


「あ、そういえばさ……優希ダンジョンでクラスメイト助けたんだって?」

「あーそういえばそうだったな……」

「山長さんから『流石旦那だね!』とか言われた時はすっっっごく驚いたんだよ?」

「忘れてた、あの日すっごく精神的に疲れて。寝落ちしたんだった……しかも翌日学校に行って『浮気だー!』って問い詰められたし……」

「なにそれ超聞きたい……」

「ふぇ!? い、いや特に変わった事なんて……」

「いや、優希がクラスメイトに問い詰められてるなんて超レアじゃん!」


 悪い奴らじゃないんだけど……あんまり得意じゃないんだよなぁ……。


「そ、そうだ! 神様とあったって……どこで会ったの?」

「あーそれね……」


 そしてその帰りの飛行機で、意識が移され耀が神様に出会ったこと。

 その時に俺が異世界を救った事を聞いたらしい。

 エアリス達の事は伏せててくれたみたい……良かったぁ……。

 そして、飛行機の到着直前に俺が大怪我で入院したことを綴さんから鳳さん経由で聞いた事。

 その後到着してから手配をされていた車をぶっ飛ばして病院まで来たとの流れである。


「いやね……元々優希が私をハーレムに加えたいって言ったらOKするつもりだったんだけどね、まさかプロポーズされるとは思ってなかったわ」


「それは、その……色々考えまして……」


「私自身は、ちっちゃい時から優希の事大好きだったけど。優希はそんな素振りなかったよね?」


「あーそれは……」


 隠したままでもどうせばれるし、白状してしまおう。


「異世界に行ってたじゃん。それで、向こうの世界でさ好きな子出来たんだよ、でも元々帰るのは確定してたし、その子には好きな人が居たみたいでさ……」

「つまりその人のお陰で、私のとの事をちゃんと考えたと?」

「はい、まぁ……そんなとこです……はい……」


 腕を組みたっぷりと考える耀、怒られるのは覚悟している……。


「うーん……私が初恋じゃないのはギルティだけど、まぁ赦しましょう! 私の初恋は実ったし、その人のお陰で優希は私との事をちゃんと考えたみたいだし!」


「ははー、有り難き幸せ」


 平伏する真似事をすると、耀も笑いだす。


 ――コンコン。


「誰かしらね?」

「誰だろう?」

「母さんじゃないし……」

「とりあえず入ってもらったら?」

「そうだね……どうぞ~」


 すると扉がゆっくりと開いた。




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作者です!

今回も読んでいただきありがとうございました!

1章の改稿版もここまで来ましたねぇ……2章も改稿版にしようかと思ってるのですがどうでしょうか? 

是非やって欲しいとかありましたら言っていただけると幸いです!


それと今までと書き方等を変えてみたのですがどうですかね?

手探りなので『前のが読みやすかった』とか『もう少し行間開けて欲しい』とか、『展開がスロー過ぎて微妙』とかありましたら仰ってください!

一応、残り数本の幕間を改稿したのと加筆をしたのを出してから、7章に戻ろうと思います!


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