第28話:ハーレムって勝手に増えるんだね……(遠い目【改稿版】

 編入試験の翌日、意識の戻った俺はベッドの上で包帯ぐるぐる巻の姿で寝かされていた。

 一眠りして魔力も回復したので軽く回復魔法を使う、とりあえず残りの骨折部分を繋ぎ合わせる、痛み止めが点滴で打たれているので痛みは少ないが、切れたらどうせ痛くなるのでさっさとくっけてしまおう。


(痛みには慣れてるけど、ずっと痛いのは嫌だからね……)


 それはそうと今朝は耀が帰ってくる日だ。


「出迎えに行きたかったなぁ……」


 こんな姿だから迎えにいけないのは当然だし、というか全身バキバキの骨折してるのに動き回ったら絶対おかしな事をしたと言いふらしてる様なもんだ。


「なにより、こんな姿見せたら心配するだろうからなぁ。でも、どうにかして今日明日で退院できないかな……」


 土台無理な事を考えていると、病室の扉がノックされた。

 返事をする前に扉が開く、顔を出したのは母さんで、片手には大きめなボストンバッグを持っている。


「なんだ、今日は起きてたのね優希。おはよう、着替え持って来たわよ」

「おはよう。母さん、そっか着替えとかも必要だもんね」


さっさとこの病院ばしょから帰る事しか考えて無かった……。

 それから部屋に入ってきて荷物置き場にボストンバッグを置く、母さんは備え付けのパイプ椅子を出して座り「ふう…」と一息ついて話し始める。


「まったく……昨日綴さんが家に来て、いきなり土下座したと思ったら、優希が全身骨折で入院したって聞いてびっくりしたのよ?」

「うっ……ゴメン母さん」

「最初は驚いたけど。事情を聞いたら納得したわ、人を助ける為だったんでしょ? 流石は父さんの子ね」

「それを言うなら、〝父さんと母さん〟の子だろ?」


 父さんは特殊救難隊員、母さんは看護師、祖父は戦争中に衛生兵として従軍し戦後は祖母と一緒に小さな田舎の診療所をやっている生粋の人助けの血筋だ。


「一通りの着替えと、歯ブラシなんかの日用品。後は暇だろうしパソコンに携帯ゲーム機持ってきたから、当分安静にしときなさい」

「はーい、とはいっても指も怪我してるんだけどね」

「じゃあゲーム機はいらないわね」


 ゲーム機だけ持ち帰り用の鞄に入れようとする。


「いやいや、治って来たらやるから!」

「はいはい……あ、そうそう。後、耀ちゃんにちゃんと連絡しなさいよ? 連絡着かないって慌てて電話が来たわよ」

「うっ……もう耀にはバレたのか……」


 こんなみっともない姿、隠したかったのに……。


「そりゃそうよ、色んな人が優希の事心配してるんだから。それで、どこにあるのよ?」

「あー、試験会場のにあるロッカーに入れてあるんだ」

「わかったわ、鍵は?」

「いや、番号式で……5525にしてたはず」

「わかったわ、綴さんには連絡しとくわ」

「ありがとう」

「それじゃあ夜勤だから、そろそろ行くわね」

「あっ……母さん、色々ありがとう。また今度、色々説明するよ」

「その時は父さんも一緒に聞くわ、そろそろ帰って来るし」

「わかった」

「2~3日したら着替え交換しに来るから。その時に帰ってきてたら、父さんも一緒に来るわね」

「はーい」


 俺の返事を聞くと急いで帰っていった。

 それから、片手だが昼食を食べた後、パソコンでここ最近のニュースを見る。

 試験の事は……あ、あったあった。

 試験中に出た事は記載されてない、一応〝オーガ〟が出現してそれを自衛隊が倒したって事にはなってるみたい、多分綴さんが処理してくれたんだな……。

 他は……大して面白いニュースは無いな。

 暇だしサブスクでアニメでも見るか……せっかくだから銀○伝でも……。

 いそいそと準備をしていると、ノックの音がした。


「どうぞー」


 入室を促すと、小鳥遊姉妹と巴ちゃんの見知った顔、それに小鳥遊姉妹とよく似た顔の女性と目つきで人を殺せそうな筋骨隆々な男性が入ってきた。


「いらっしゃい、はる「「優希さん!」」——ひぎぁ!?」


 挨拶の途中二人に飛びつかれ、まだ完治させてない部分の骨が軋む……痛い痛い!!

 痛いけど二人が大泣きしているので、無理にどかせたりしない……ここは我慢するしかない……あ、やっぱ痛いからもうちょい回復魔法使おう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 それから10分ほど泣き続けた、二人が泣き止んだ。


「はいはい。二人共、上凪さんがさっきから痛そうな顔して必死に耐えてたのよ、そろそろ離れないさい」

「うっ……ごめんなさい優希さん……」

「ごめんなさい、おにーさん……」


 恐らくお姉さんかお母さんであろう女性の手で双子は引き離された後、謝って来る。


「大丈夫だよ、それより二人は何ともなかった?」


 回復魔法は使ったし大丈夫だけど、戦闘の影響が無いとも限らない。


「はい! お陰で元気です!」

「うん! 特に問題な~し!」


 元気そうな二人を見て心が温かくなる、あの時頑張って良かったと思う。


「こら、二人とも、まずはちゃんと自己紹介をしてから」

「「はーい」」

「じゃあ私から、小鳥遊春華、16歳です。好きな物は優希さんと家族の皆、それと巴ちゃんです! 将来の夢は優希さんのお嫁さんです!」


 なんか今爆弾発言しなかったか?


「あっ、ずるーい春華!」

「先手必勝だもんねー」


 俺の反応などをそっちのけで、やいのやいのやってる姉妹、だがお母さんかお姉様に睨まれ姿勢を正す。


「こほん、私は小鳥遊冬華、16歳だよー! 好きな物は優希おにーさんと家族の皆、お菓子に巴ちゃんだよー、私も将来の夢は優希おにーさんのお嫁さん!」


 そう言ってまた爆弾発言が……。


「次に私ですね、私はつむぎともえと申します、好きな物は春華ちゃんと冬華ちゃん……それと……ほ、他にはありませんが! 和菓子が好きです!」


 一瞬チラッと見られたが気のせいだろうな、それにしてもお菓子かぁ~巴ちゃんは一部が非常にふくよかだし、雰囲気が名家のお嬢様っぽいもんね。


 三人の自己紹介が終わり大人二人が前に出て来る。


「次に私ですね。小鳥遊 姫華ひめか、二人の母親です。この度は、二人の事を命懸けで助けていただきまして、深く感謝します」


 そう言うと姫華さん含め皆が深く頭を下げて来る。


「いえいえ! 俺自身もあの状況は戦わないと死んでしまう所でしたから! それに……二人が居なければ俺も死んでいましたから……」


 正直、あの戦いはギリギリだった、致命傷になりえた初撃と決定的な攻撃を防いでくれた春華、撹乱や決定的な1撃を与えてくれた冬華、二人が居なければ打開できなかったし恐らく負けていただろう。


「それでこちらが……」頭を上げた姫華さんが隣に居た男性へと促す。


「どうも、私は妻の、姫華の夫である小鳥遊 鷲司しゅうじだ、この二人の父親でもある」

 

 厳つい顔をした鷲司さんがぺこりと頭を下げる。鋭い眼で見てくるのは変わりないが。


「すみません、この人武道一辺倒で壊滅的なコミュ障なの……」

「そーそーお父さん目つき怖いんだからおにーさんを怖がらせちゃ駄目だよ~」

「……!?」


 なんか冬華の言葉でショックを受けている鷲司さん、すると姫華さんも「無口だけど、これでも優希君にすっごく感謝してるのよ」とフォローしてくる。

 それから俺も自己紹介をして、お見舞いでもってきてくれたお菓子を食べながら皆で談笑する。

 そして1時間くらい経ったタイミングで鷲司さんが口を開いた。


「ところで、君は……娘たちのどちらと結婚するんだ?」


 鷲司さん…何でスルーしてた事を掘り返すの?しかもさっきより目つき鋭いし……。


「えっと……昨日会ったばかりですよ俺……」

「知っている。だが、私と妻は会って3日で結婚したぞ?」

「3日!? それはまた早いですね……」

「妻に押し切られたんだ……」

「だって鷲司さんに事故に遭いそうな所を庇ってくれたんですもの、その時この人なら私の人生預けられると思っちゃったんですもの! でも勘は当たっててよかったわね」


 わーお……そんな事あるんだ……っと、俺もちゃんと意思表示しないと……。


「えっと……俺結婚しようとかは思ってないですし、それに好きな人がいるんですが……」

「そうか……春華、冬華どうする?」


 二人をしっかりと見つめる鷲司さん。


「私は、諦めるつもりはないです!」

「私もー、振り向かせてみせる!」


 二人も、しっかりと鷲司さんを見て返す。


「そうか……」


 それからたっぷり時間を使って考え込み、呟いた鷲司さん、そしてこちらに向き直る。


「上凪君、わがままで自由で頑固な二人だ。だが大切な娘がこう言っている、君が選ぶにしても選ばないにしても。一度、しっかり二人のことを見てくれないか……頼む」


 その言葉と共に丁寧な所作で頭を下げてきた。


「うっ……でも……」


 返答に困っていると、病室のドアが突然開いた。





⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤

作者です!

今回も読んでいただきありがとうございました!

現在この作品は【カドカワBOOKSファンタジー長編コンテスト】へ出しております

読者選考を抜ける為にもし良かったら☆や♡貰えると、作者のモチベアップになりますので貰えると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る