第27話:天眼【改稿版】

 一体……何が起きた?

 直撃し核を貫いた筈だった氷の槍は、シルバーオーガの手によって受け止め砕かれていた。


「そんな……視界を奪い、足も止めた筈なのに……」


(詠唱も完璧だ、魔力もほぼ全部込めた……何がいけなかったんだ!!)


 悠々と立ち上がるシルバーオーガ、奴はこちらを見据えると気味の悪い「ガアハハハ」という笑みを浮かべている。


 その額に第三の目を宿しながら。


 あの目か!! あんなもの異世界のシルバーオーガに無かった!!。


「優希さん!!」


 春華の声に顔を上げると気味の悪い笑みを浮かべるハイオーガ、今度はこちらの番とばかりに飛び掛ってきていた。


「クソッ!」


 1合2合と斬り結ぶ、こちらの手は全部出した、魔力も殆ど使ってる、後はジリジリと削られるだけだ……。


(何か! 何か打開策はあるはずだ……)


「グヒャヒャヒャ!!」

「うわっ!? ぐうっ……」


 遂には、盾も吹き飛ばされてしまう、おまけに腕の骨まで逆方向に曲がっている。


(クソッこれ以上は……)


 下がりながら無理矢理、腕を回復魔法で接合する。

 シルバーオーガは、全能の力でも得たのかと言わんばかりに高笑いをする。


(力も、スピードも上がってやがる……こんな奴を外に出したら間違いなく虐殺が起きる……)


 背後にいる二人や綴さん、父さん母さん、そして今飛行機に乗っている帰国している耀。


(皆がむざむざ殺されるのを甘んじろって言うのか!)


 残されたのは捨て身の攻撃で、こいつと相打ち覚悟で致命傷を与えるしか……。


(今、俺の力じゃアイツに肉薄は出来ても、両断するくらいの大振りの攻撃は出来ない……出来ても全身の速度を乗せた突きだけだ……やってみるか……)


「春華、合図をしたら盾を全力で投げてくれ。冬華は全力の1撃をあいつの眼に叩き込んでくれ、タイミングは任せる」

「わかりました!」

「はい!!」

「おれはもう一発……全力の一撃を叩き込む!」


 覚悟を決めて前に出る、身軽にするためにポーチや鞘を外す。

 相対するハイオーガは、舐め切った顔で『もうチンケな作戦会議は終わったのか?』と嘲笑うような顔でこちらを見てくる。


「むかつくな、その顔……『火よ我が剣にその力を纏い、敵を焼き殺す炎となれ――フレイムエンチャント!』……ぐぁぁぁあぁぁ!?」


 武器に炎が纏い、熱を持っていく。

 この技は魔力を注げば注ぐほど纏う炎の勢いが増す、だがそれと同時に術者自身を火傷させたりする危険な技だ。

 今、俺はそれを利用し、赤く熱された剣とそれを持つ掌が癒着していく。


「行くぞ!!」


 体全体に魔力を行き渡らせ、放たれた矢のように進む、シルバーオーガは俺を叩き落す為に大剣を振り上げる。


「春華!今だ!」

「わかりました優希さん!」


 オーガの振り下ろしに春華の投げた大盾が重なる、春華の魔力によっていつの間にか強化された大盾は簡単には叩き落されず、シルバーオーガの大剣と激しくぶつかり金属同士が砕ける音が響く。


「これで!終わりだ!」

「グギャ!? ギャァァァァァァア!?」


 魔力の炎を纏わせた剣でハイオーガの鳩尾に向け全体重を乗せた刺突を放つ、致命傷となる確かな手ごたえと共に肉が裂ける感触が手に、内臓の焼ける匂いが鼻に伝わる。

 だが猛者であるシルバーオーガも残り少ない力で俺に致命となる1撃を与えようと拳を振り上げる。


「冬華ぁぁぁ!!」

「させないよっ!!」


 冬華の放つ魔力の乗った渾身の一矢は、今までと違い音を置き去りに飛来しシルバーオーガの第三の目を貫いた。

 その衝撃に血の華が咲く、だが体制を崩されながらもハイオーガの1撃は止まらない。


「優希さん!!」

「お兄ちゃん!!」

「――――――っは!」


 二人の声が聞こえたと同時に腹部に伝わる衝撃、それと共にベキバキと体の骨が砕ける感覚が襲う、肺は潰れ空気は全て吐き出され呼吸が出来なくなる。


 1瞬飛んだ意識、その後叩き付けられる感覚で意識が覚醒する。


「ごばぁ………げほっげほっ……はぁはぁ……ざまぁみろ……」


 血と吐瀉物の混じる赤い塊が空気と混じり口から吐き出される。

 衝撃で揺れている虚ろな視点でシルバーオーガを見ると、奴の体は剣を刺した所を起点に大きく裂け絶命していた。


(傷付きし体よ、我が残りの魔力をもって癒やせ……その力は体を巡り傷を癒すだろう……エクストラヒール)


 喋れそうにないので脳内で詠唱をし内蔵のみを回復する、そこで魔力が切れた為体の骨折は治せそうに無い。

 恐らく左腕の関節と右足と肋骨も何本か砕けているだろう……。

 熱で手と癒着した剣は折れ至る所にヒビが入っている、もう使い物にならないであろう事は確かだった。


(ああ、せっかくエアリスに貰った剣だったのになぁ……)


 異世界で共に旅をしてきた白銀の相棒は、役目を果たしたかのように鈍く輝いていた。


(ごめんな……ありがとう……)





 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「優希さん!!」

「おにーさん!!」


 しばらくの間、全身が痛く体は動かせなかった為に、双子には心配させてしまったのか二人が駆け寄って来た。


「春華、冬華、シルバーオーガの討伐部位は?」

「それなら、春華が回収してくれたよ」


 そう言って冬華は、ハイオーガがつけていた首飾りを持っていた。


「そうか、なら良かった。なら俺を置いてここから早く出るんだ、新しいモンスターが来る前に」

「そんな! 優希さんを置いていけません!」

「そうだよ! おにーさんが残るなら私たちも残るよ!」

「馬鹿なことを言うんじゃない……俺はもう動けないんだ、担げないだろうし。ここに置いてかないと二人だって襲撃されたら危ないんだ」


 異世界でも重症でダンジョンより自力で帰れない者はその場に置いて行くしかなかった、なのでパーティーには回復役が必ず一人は居て、その者の状態を中心に探索を行う鉄則があった。


「それなら……」

「大丈夫です! 私に名案があります!」

「へ?」


 そう言って春華は持っていた鞄よりロープを取り出し満面の笑顔を見せた。



 それから春華に背負われ体を縛られていた、その上からはハイオーガの攻撃で吹き飛ばされた俺の盾を被せられた。


「「これで良し!」」

「春華って、力持ちなんだな……」

「はい!」


 それから1階層に出る、するとダンジョンは静まり返っていた。

 俺達(俺は背負われておる状態だが)は来た道を戻る、道中2度ゴブリン接敵したが春華が捌き、冬華が的確な射撃で速攻倒していた。


 そして30間程でダンジョンの外に出ると、外はすっかり夜になっていた。


「優希君!!」

「春華ちゃん、冬華ちゃん!!」


 ダンジョンの外で自衛隊の相手をして居た綴さんと巴ちゃんが駆け寄って来て、俺を降ろした後の二人は巴ちゃんと抱き合って泣いていた。


 その姿を見ながら俺は、春華の背から担架に乗せられヘリに乗せられた所が限界だったのかそこで意識が途切れた。





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