第20話:休日の初級ダンジョン③【改稿版】
オークとその取り巻きがこちらを振り返ったのを確認して、先程走っていた際に用意していた手斧を両手で投げる。
「ギャルギィ!」
「ギルルゥ!」
身体強化で力の上がった鋭い投擲で2体の頭が粉微塵になる。
「次は……『氷の槍よ穿ち散れ――アイスランス!』」
短縮詠唱で小さめの槍を二つ創りだし投げつける、腹を貫かれたゴブリンが吹き飛ぶ。
「グギギル!?」
「ゲヒャヒャ!?」
壁に当たった衝撃で短縮詠唱の氷の槍は砕け、そこから血が溢れ出し動かなくなる。
「さて……後は……」
「ブヒルッ!!」
剣を抜き構える、取り巻きは倒したのでオークのみだ。
「ブホッーブホッー」
「興奮してるなぁ……」
「ブヒルッ!」
――ドタドタドタ!
勢いよく走り出し棍棒を振りかざす、あの手の攻撃は生身で受けると危険なんだよな……。
「だけどっ!」
「危ない!!」
「ブモモモォ!」
――バギィン!
「真っ正面から! 返させてもらう!!」
「ブヒル!?」
強化した盾で弾き返し、そのままもう片手の剣でオークの腕を斬り落とす。
そのまま後ろに飛ぶ、俺を掴もうとしたオークの片腕が空を切る。
「ブヒャーブヒャー……」
「あんまり時間はかけたくないから、次で終らすぞ!」
一気に距離を詰め首に狙いを定める、一瞬深く体を沈ませ跳ね上がる。
「はぁぁぁぁ!!」
狼狽えるオークの首を空中で斬り落とし、着地をする。
大きな音を立てて倒れ込んだ、オークの首が転がっていった。
「ふぅ……だいじょうっ!?」
血払いをして剣を収める、オークの襲おうとした相手へ視線を向ける、と同時に相手と目が合った。
「上凪君?」
「へっ?」
そこには未だにクラス委員の
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっと……山長さん?」
「上凪君?」
お互いに固まっていると、もう一人の女子が痙攣し出す。
「やば!?」
「ちょ!
「ごめん長山さん!」
這いずってた山長さん押しのけて、加奈と呼ばれた少女の状態を見る、一目でわかるくらいの重傷だ。
「腕が折れてるだけかな? 山長さんこの人はどんな感じに攻撃を受けたの?」
「え、えっと……後ろから不意打ちで……私は直撃して無いけど加奈と一緒に吹き飛ばされて……いっつ!?」
「ごめん、傷を見るから少し切るね」
「うっ……あがあぁァぁぁ!?」
裾を切って広げ山長さんの脚を見る、膝下からが大きく変形していて骨が見えていた。
不味い……このままだと……。
風間さんの容態がわからないが大きく破けた服から見えるのは青くなった腹部と折れているであろう肋骨、もしかしたら骨盤もやられてるかもしれない。
「仕方ない……『私の前で傷付きし者、私の力をもって癒やせ!その力はすべての傷を直し給え!――パーフェクトヒール!』」
呪文を唱えると、光に包まれ二人の身体が治っていく、山長さんは足だけだが、風間さんは全身だ。
「ひぃ……ひぃ……ありがとう上凪君……」
「あーうん……どういたしまして」
そう返すと、微妙な空気になる、。
「えっと……この子は
「あーうん、そうなんだ……」
(そうなんだじゃないよ!? ほら! 微妙な空気になってるじゃん!!)
「あ、先に討伐部位を集めないと……」
気まずさから逃げようとしてオークの死体の方へ向かうする。
「私も手伝うよ、ゴブリンで良い?」
「あ、ありがとう……」
気まずい空気の中俺はオークの鼻と耳、そして魔石を。
山長さんはゴブリンの耳を取っている。
(空気が重い!! どんな事話せばいいんだっけ!?)
「凄く強いんだね……」
「ま、まぁ……偶然にも強いジョブが出てね……それより……」
「それより?」
「山長さん、今回の事は黙ってて欲しいんだ」
そう言うと、不思議そうな顔をする。
「えっと……どのこと?」
「えっと、ゴブリンを倒した時と二人を治療した時の魔法を……」
「え? あれやっぱり、魔法なんだ……」
「うん、それでね、実は……」
耀が【魔法使い】になった事、それで世界中から狙われてる事、耀は国外に身を潜めれたけど俺はそうもいかない事を伝える。
「という訳で、俺が魔法を使えると知れ渡るとヤバいんだ」
「そっかーって、私それを知ると捕まって拷問とかされない!?」
「えっと、それはわからない……かな?」
「やめてよ!? 私また死にたくないよ!?」
「だから、黙っててくれると有難いかな……」
「わかった! この事は墓まで持ってくよ!!」
いつもの感じに戻って来た山長さんに笑い返す、すると気絶していた風間さんが目を開ける。
「あれ……私……」
「加奈ぁ!?」
「わっ! ちょと
「ふぁーん! よがっだぁ!!」
「ちょ!? どうゆう事!?」
因みに俺は後ろを向いている、風間さんの服はガッツリ破れてしまっていたので着ていたジャージをかけているのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっと……それで。私は気絶して死にかけてて、恭代のクラスメイトに助けられたって事?」
「あ゛い゛……ぞうでず……」
「あっ、えっと上凪優希と言います」
「私は、風間加奈です。助けてくれてありがとう上凪君」
差し出された手へ軽く握手する、まだ少し顔色が悪いけど大丈夫そうだ。
「それで、上凪君」
「はい……何でしょうか?」
「ジャージ、もうちょい借りてていい?」
「あぁ……うん、それは良いけど……替えの服とかは?」
「あ……どうしよう……持ってない……」
「わだじももっでない……」
うーん……そうだ!
「ご両親に買ってきてもらうとかは?」
「あー私の家、片親でさ……」
「ご、ごめん……」
「いや、良いよ。今日はせっかく足伸ばしたってのに、これじゃあマイナスだよなぁ……」
「マイナス?」
「うん、私の家片親って言ったじゃん? それでお母さんも働いてるんだけどあんまり稼げなくてね……、家計も厳しいしどうしたもんかなぁ……」
「そうなんだ、それだと無理かぁ……山長さんは?」
やっと泣き止んだ山長さんに声を掛ける。
「ウチの親も今日は仕事なんだ。と、いうか自営業だし、ほぼ休みないんだ……」
「え? じゃあ二人共どうやってここに?」
「駅からバス出てるから、それで……」
「そっか……じゃあ帰りに買うとか無理だしなぁ。あ、そうだ。」
「「???」」
「ちょっと待っててね……」
綴さんに電話をかける、ダンジョン内は何故か電波が繋がるのでスマホは持ち込んでいる。
『ひあは~い、が~み~な~ぎ~君~?』
「何やってるんですか?」
『ごめんごめん、マッサージ機に包まれてたから……』
「そうだったんですね、すみません……」
『いやいや。大丈夫、大丈夫~んで、どうしたの?』
「それがですね――」
魔法の事は伏せ事情を説明すると、綴さんが快くOKを出してくれた。
『それじゃあそっちに戻るよ~』
「はい、ありがとうございます」
電話を終了して二人の所に戻り説明をする。
「よかったぁ……というか上凪君ってもしかして凄い人?」
「そうよね、私と加奈の傷治してくれた……あっ……」
「えっ? 治したって……」
「あー……今から話すことは、秘密にしといてね……」
先程の説明をする、すると風間さんが土下座する。
「ありがとうございます、まさかそこまで傷が酷いとは思わなかったわ……」
「いやいや、俺としては口裏合わせてくれれば良いかなと思って」
「わかったわ、絶対に漏らさないわ……」
「なら良かったよ、ありがとう……」
それから三人でダンジョンの入口へ向かい歩き出した。
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作者です!
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改稿版での新キャラです!
・山長
優希と耀のクラスメイト。
快活な性格でクラス委員、でもたまにやらかす。
家は自営業の定食屋さん。
ダンジョンで加奈と共にオークに襲われたところを優希に助けられる。
・風間
恭代の親友、ダンジョンで恭代と共にオークに襲われたところを優希に助けられる。
大怪我を追っていたが優希の魔法で完治する。
家が貧乏で稼ぎが良い為に潜った。
性格は恭代と似ている。
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