第18話:休日の初級ダンジョン①【改稿版】

 こちらの世界での初ダンジョンに行ってから1週間ちょっと、今日は休日を使って県外のダンジョンへ向かっている。


「綴さん、ありがとうございます」

「良いのよ、耀ちゃんの身柄は鳳さんが確保してくれてるし」

「まさか、耀が有名人と一緒にいる事になってるとは思いもしませんでしたよ」

「いやいや、それを言っちゃうと表に出ないだけで耀ちゃんも有名人だから……」

「あはは、未だにどこかの国の人達が、家の周りをうろついてますからね」

「そーなのね……まぁ出国記録は残して無いし、今はホテルのジムやなんかで体力トレーニングしてるだけだからね」

「でも良かったです、向こうの政府が好意的で……」

「うーん……そうでも無いのよ……耀ちゃんの顔がバレて無いから今の所問題になってないけど、ご両親の方は拘束されかけたって言うし。今はご家族と耀ちゃんの影武者がヨーロッパ地域を転々としているわ」

「マジですか!? 耀そんなこと言ってなかったぞ……」


 おじさんとおばさんまでもが狙われてると聞いて、心臓が跳ねた。


「そりゃ上凪君に負担をかけない様にしてるのよ」

「うっ……言ってくれればいいのに……」

「まぁ、ご両親も会社から少し早い休暇を貰ってバカンスを満喫してるみたいよ」

「え? バカンス?」

「えぇ、どうやら日本から警護も向こうに行ってるの、それとヨーロッパ各国も拘束した場合、耀ちゃんのデータが出ても渡さないと通達したらあまり過激な事も出来なくなったのよ」

「良かったぁ……」

「まぁ、気休め程度だけどね……後は。二人の家の周りにいる連中さえどうにかなれば帰れるんだけどねぇ……」


 耀が海外に飛んだ日、やたら黒塗りの高級車を見たのはそういう事だったらしい。

 住所や高校が登録されていたのでその道中に待ち構えていたし、今は街中でも挙動のおかしい人が散見される。

 しまいには、近隣の小中高校に不審者が町中に居るので気を付けて下さいと、学校でプリントが配られる始末だ。


「という事は、まだ帰ってくるのが先という事ですよね……」

「そうね、上凪君の試験までに帰って来れれば良いのだけれど……」

「まぁ、帰って来ても来なくても試験は通過しますんで」

「おっ! いいねぇ~まぁ君の討伐履歴を見れば、問題無さそうなのはわかったからね」

「履歴なんて見れるんですか?」

「うん、討伐モンスター毎にお金が出るし。そうなると証明が必要になるのからね、討伐部位からモンスターの確認できるもののみだけどね」

「そうなんですね、知らなかったです」


 今週何匹倒したっけ? 覚えて無いな……。


「その顔は覚えて無いわね……ゴブリンだけで237体。高校生の中じゃトップクラスよ」

「そんなに倒してたんですね……」

「そうね、ほぼ毎日ダンジョンに行ってるみたいだし、休みの日は一日籠ってたわよね?」

「あーそうですね……」


 身体強化の訓練や肉体作りもしてるからね……。

 シャワーもあるし休憩所もある、ジムと違って無料で使えるのが大きい。


「それにしても、凄いよねその剣。綺麗なのもあるけど普通の武器とは違う感じがする」

「うぇ!? あーそうですね。でもこれ、差出人不明から送られて来たんですよ」

「えっ……良く使えるわね……」

「最初はどうしようか思ったんですけど、持ってみると意外としっくり来てて。しかも俺が使うと羽根みたいに軽いんですよ」

「へぇ……不思議ねぇ……」


(そりゃ俺用に向こうの世界の鍛冶師が作ってくれたもん! そりゃしっくりくるよ!)


 そんな話をしていると高速を降りる、ここからダンジョンまですぐとの事だ。


「上凪君、コンビニへ寄るわね~」

「はい、お願いします」


 5分程走るとコンビニが見えて来た、駐車場に入ると自衛隊の車やダンジョンに向かうので合あろう人が停まっている。


「そういえばこのコンビニって避難区域ですよね?」

「そうね、とはいってもダンジョンに行くのに何もないってのは不自由すぎるし、自衛隊に運営してもらうのはかなり負担なのよ。でも民間にやってもらって、自衛隊員が交代で常駐すればあまり負担にならないしお店は避難区域でも運営できるのよ」

「あ、外に自衛隊の車があったのって……」

「そうよ、それに自衛隊の車があれば防犯面も問題無いしね」


 トイレを済ませ簡単な軽食を買い込んだ後に出発する、ここからダンジョンまでは車ですぐの距離だ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「うーんっ! つかれたぁ!」

「運転ありがとうございます」


 ダンジョンの近く、整備された駐車場に到着した。


「でも、ここまで来てなんですが。連れてきてもらって、良かったんですか?」


 今更ながら、休日に車を出してもらうのは大変なはずだ。


「あー大丈夫大丈夫! 私も用事があるし!」

「用事ですか?」

「うん、上凪君がダンジョンにいる間、私は温泉を存分に楽しんで来るわ!」


 ボストンバックを取り出しながら高らかに言う、確かここらへんは温泉も有名だったな。


「だから、昨日いきなり言って来たんですね」

「そうね、しかも上凪君の移動で車出せば交通費タダだし!」

「えぇ……」

「お休み無いし、こういう時じゃないと休暇も使えないからねぇ……それに、休日の仕事は割とどこでも出来る様にしてるから……」


 そう言いながら肩を回す綴さん、肩もゴリゴリ鳴ってるし相当お疲れの様だ……。


「わかりました、最低でも夕方くらいまでは潜りますので。温泉楽しんできて下さい!」

「わかったわ、それじゃあ頑張って!」


 俺の荷物を降ろすと、綴さんは出発していった。


「さて……俺の方も頑張りますか!」


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