第59話:密約

「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ魔王様、奥方が攫われたというのは本当なのか……なのですか!?」


「えぇ、本当です。今も人間領の、王都方面に逃走しています」


ウルベリックさんが考え込む、冷静な感じだけど額の汗が滝の様に流れている。


「何か知ってるんですか?」


「知らない……というのは無理があるな。実は……」


数時間前に魔獣車がかなりの速い速度で抜けて行ったそうだ。しかもその時間、検問を行っていたのが現王と懇意にしている貴族の部下で、通った者達はその貴族の通行証を持った冒険者だったらしい。


「すまない! そう言った者達がいた報告は受けていたが積み荷を確認する事が出来ず強引に通されてしまったんだ」


嘘は言って無さそうだよなぁ……どうしたもんか。


「わかりました、今から簡単な魔法を掛けますのでそのままで」


「兄貴!!」「待ってくだせぇ! これでも領主なんでさぁ!!」


お供の二人が悲痛な声を上げる。


「大丈夫だ二人共、この人はそんな卑怯な事はしないよ。それにそんなことするくらいならもう既にかけているからね」


そう言ってこちらにニコリと微笑む。


「さぁ、魔王様。煮るなり焼くなりしてくれ」


「わかった、それじゃあ……『——魅了魔法ファシネーション』」


リリアーナも持っている魅了魔法で、ウルベリックさんを催眠状態にする。


「それじゃあ、質問に答えて下さい」


「……はい、何なりと」


「奥さんの名前は?」


「ナタリア・ミローズ」


「奥さんのどこが好き?」


「強くて、愛情深くて、それでいて本来四男に生まれた私とでは無く兄と結婚するはずだったのに、嫌な顔をせず、卑屈だった私を好きになってくれた所だ、感謝している」


「兄貴!?」「そんな事を思っていらしたんですね……」


お供の二人が男泣きをしてるんだけど……普段言わないんだろうなぁ……。


「それじゃあ次、現国王の治世についてはどう思う?」


「正直、このままだと国が疲弊して圧し潰されるだけだ。地方からは搾取して、王都近郊の貴族たちは裕福な暮らしをしている。現に従国にしてはいるが北方の諸連合に力負けをしている、いつ逆襲されるかわからない。前国王の治世の方が時間はかかるが豊かになっていた。何より、侵略戦争で多くの国民を使い捨てにし過ぎている」


「……わかりました、『——催眠解除アンチマジック』」


「……何か凄く恥ずかしい事を言わされた気がするんだが、信用はして貰えたかい?」


「はい、後は感謝の言葉とそういう告白は奥さん本人に伝えてあげて下さい」


そう言うとウルベリックさんは顔を真っ赤にする。


「二人共……私、変な事言ってなかったか?」


「えぇ!」「奥様への愛の言葉のみです!」


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


余程恥ずかしかったのか地面に膝ついて悶絶し始めた。


「まぁまぁ」「奥様にお伝えしてきますね!」


「やめてくれぇ!!」


「ま、まぁ嘘でないのがわかりましたので……」


「あぁ、それなら私の恥ずかしいものが晒された甲斐があったよ……」


それから数分悶絶してから立ち上がったウルベリックさんは、顔が赤いままだった。


「それで魔王様、奥方様の救出に手を貸せばいいのですか?」


「えぇ、出来れば内密に」


「わかった、何をすればいい?」


「証人になって欲しいのです、違法冒険者集団が国王に協力していたと証明する証人が」


「そうだな、何か策はあるかい?」


「えぇ、駐屯地から撤退していてもらえますか?」


「どういうことだ?」


「戦場をぶち壊します」


「は?」「え?」「はぁ!?」「ほぇ?」


「だから俺が魔法で戦場をぶち壊して復旧に時間をかけますので」


「つ、つまり……この戦場を滅茶苦茶にして私達の軍を撤退させるのだな?」


「それもありますが、魔王との交渉決裂で、軍が撤退を余儀なくされたという事にしといて下さい」


「わ、わかった」


「時間はおおよそ1時間後、撤退しない場合は壊滅させますので無理やりにでもウルベリックさん達は逃げて下さい」


「わ、わかった……」


「それと、後日そちらの領に秘密で行きますのでその時に又、秘密のお話をしましょう」


ニヤッと笑うとウルベリックさんは真剣な顔で応えた。


「さてそれでは、俺は魔王軍の方にも話をつけてきますから」


「ではまた!」


そう言ってウルベリックさんは馬に乗って戻って行った。


「ユウキさん? 大丈夫なのですか?」


セレーネが心配そうな顔で問いかけて来る。


「あーうん。この戦場程度なら楽勝……とまではいかないけど大丈夫だよ」


「わかりました! 私はどうすれば?」


「まぁ、魔族の中に居れば大丈夫だろうし一緒に行こうか」


「はい!」



◇◆◇◆◇◆◇◆

それから魔族側に歩いて行くと指揮官らしき人が砦から出て来る。


「初めまして魔王様、ようこそいらっしゃいました。私指揮官のバルドルと申します、魔王軍では軍隊指揮を受け持たせていただいております」


2.5メートル位ある初老の獣人が片膝を着いた


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