第60話:流星雨
魔王として迎えられた魔族陣営の宿営地は割と綺麗だった。
「すみません、このような小汚い場所で……」
「いえいえ、凄く綺麗ですね。清掃も行き届いてるしこれなら負傷者の治療もしやすいですね」
「なんと……新しき魔王様は既に戦場を知ってらっしゃるんですね」
「あはは、昔最前線で戦ってましたので」
「どおりで……先程からビリビリと肌を焼かれる感覚があったんですね……」
バルドルさんがそう言うとセレーネが半歩下がる、そんな静電気みたいなもの出して無いからね!?
「いやいや、何も出して無いですよ。威圧とか魔力を解放してる訳じゃないですし」
そう言うとバルドルさんは顎鬚なのかわからないけど、顎の毛を撫でる。
「我が種族は猛者を前にすると危機感覚が反応するのですよ、それも強ければ強い程全身が総毛立つ程にです」
「流石ユウキさん……四天王様に戦わずして認められるなんて……」
「ははは! そちらの
目を爛々と輝かせながらセレーネに詰めよるバルドルさん、バトルマニアは元気だなぁ……。
「はへっ!? ユ、ユウキさまぁ……」
助けて欲しいとばかりにこちらを見るセレーネ、まぁ獣に近い獣人だから暑苦しそうだな。
「すまない、バルドル殿。彼女は私の妻で今はとある問題の中心人物なのだ。それ位にしていただけると嬉しいのだが」
魔王モードで切り替えて話すとバルドルさんも察したのか真剣な表情になる。
「奥方様でいらっしゃいましたか、これは失礼を。それで魔王様、どういった問題でしょうか?」
「それが――――」
セレーネの里が襲われた事、宝石獣の子供達が攫われた事。そしてリリアーナが子供と共に人質に紛れてる事を伝えると、一変して憤怒の表情を見せる。
「魔王様、その様な非人道的行為を見過ごす訳にはいきません!! どうか私共駐屯地の兵含め約3000、その全てで人間領を進行しましょう!!」
「落ち着け、バルドル殿。リリアーナの位置はわかるし、今は襲撃犯たちを泳がしている、それよりも貴殿にはやってもらいたい事があるんだ」
そう言うと毛を逆立たせたまま、冷静さを取り戻したバルドルさんが大きく深呼吸をする。
「すみません魔王様、それでわたくしめにやって欲しい事とは?」
「監視塔から両陣営の間を抜けた複数台の馬車や明らかに様子のおかしい人間と魔族の冒険者達を見たか調べて欲しいんだ」
「それは、まさか。犯人達の中に宝石獣の里まで案内した魔族が居たんですか!?」
「残念ながらそうみたいだね、ちなみにバルドルさんは報告とかあった?」
「すみませぬ、そういったものはありませんでした……」
「そうか……じゃあこの駐屯地から逃げ出す人が居ないか監視を頼むよ」
そう言うとバルドルさんは大きく頷いた。
「あいわかった、緊急事態として逃げ出す者達は拘束させてもらう様に指示を出します」
「助かる。それと、少しの間セレーネを頼む」
「畏まりました私の傍ならば襲う者もおりませんので」
「それでは行ってくる……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さてと……そろそろ時間かな?」
撤退していく人間軍を眺めつつ準備をする。
「まずは……『わが魔力の奔流よ、その形を顕わにし大河となってこの地を呑み込め!――――
溢れ出た水が竜の頭となって周囲に広がっていき泥沼のような状態になる。
「これで準備完了っと、じゃあ次は
炎の渦が岩を包み溶かし始める、ガンガン魔力が減って行くが気にせず続ける。
「よし! これくらいで行けるか!! 呪文はいいや!!『降り注げ――メテオ!!』」
融解した岩を流星のように落としていく、轟音と水蒸気。更には爆発も起きる。
当然両軍から悲鳴が響く。
そして十数発、時間にしてほんの五分程の天災は終わった。
「よしよし、いい感じに穴が開いてたり崩壊してるな」
人間軍の野営地含め平原は荒野になり所々地面が赤く溶けている。
「じゃあ、戻りますか……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
魔王軍の陣地へ戻ると涙目のセレーネと引き攣った顔のバルドルさんが迎えてくれた。
「ユ、ユウキさん……今のユウキさんがやったんですか!?」
「うん、そうだけど……大丈夫だった?」
「正直、この世の終わりかと思いました……なんなんですかあの魔法は……」
「科学の力ってやつ、俺の世界じゃ割と常識なものだよ」
目が潤みっぱなしのセレーネの頭を撫でながら答える。
「こんな世界の終わりが常識なんて嫌ですよ!!」
まだ怖いのか半分近く【人化】が解けている、ケモ度60%位だ。
「ほら、落ち着くまで撫でてあげるから……すみませんバルドルさん、セレーネが落ち着くまでどこか一室貸してもらえますか?」
「そうだのう……ちょうど使ってない貴賓室があるのでそちらを手配しよう、少し待っててくれ」
そう言ってバルドルさんが陣地の中心へ戻っていった。
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