第58話:協力要請とミローズ領主
両軍の兵士たちは上から聞こえた俺の声に驚いて動きを止めた。
(魔族側の指揮官が何か叫んでるけど……あぁ……)
「うてぇえええええ!!」
号令と共に矢の雨を降らせてくる、共々に当たる様にだ。
『風よ、我が前に暴壁を創りだし飛来する悪意から妨げる盾となれ――ストームウォール!』
暴風の壁が矢を絡め捕り破壊していく、破片となった矢の屑がパラパラと兵士の頭上に降り注ぐ。
「もう一度言うよ? 両軍停戦しろ」
ぎろりと睨むと「うっ」と声を小さく上げる両軍。
「敵を目の前にして引けると思うのか!!」
魔族側の指揮官が怒声を発して抗議してくる、更に「そうだそうだ!」と声を上げる両軍兵士。
「わかった、じゃあこうするか……我はリリアーナ・ノーブルブラッディの夫である! つまり我は魔王であるノクタール・ノーブルブラッディの後継者だ! その我が命じる剣を引け!」
リリアーナと夫婦になる事で得た【操血魔法】で剣とマントを創りだし、周囲に魔力を放って威圧をする。すると両軍共に結構な人数の兵士が気絶したり腰を抜かしたりしているが仕方ない。
「あれは姫様の!? 引け、全軍引け! あのお方は吸血鬼だ!!」
魔族側の指揮官が撤退命令を出してくれた、前線の距離が開き始めたので両軍の間に降り立つ。
『我が魔力に答えし大地よ、強固なる壁となりて皆を守れ――アースウォール』
そのまま両軍を分断するように壁を創りだした後、威圧を解除して人間軍に向けて歩き出す。
「そっちの指揮官さん居る? 出来れば話し合いをしたいんだけど」
拡声魔法で声を掛けると護衛に囲まれている白馬に乗ったイケメンが現れた。
「私がこちら側の指揮官、ウルベリック・ミローズだ!」
ミローズ……どこかで聞いた覚えが……。
「良かったです、休戦事項について話し合いたい事と手を貸して欲しい事があるんですが!」
そのまま【操血魔法】を解除してもっていた武器も置くとウルベリックさんも馬を降りた。護衛はそのままだけど話しやすい位置まで寄って来てくれる。
「まず、聞きたい事がある。君は人間なのか?」
ウルベリックさんがおずおずと聞いてくる。
「はい、人間ですよ、とは言ってもそこらの人より強いですが……」
「それはわかっている……正直先程の威圧だけで敵わないと思ってしまったよ」
あははと笑ってるウルベリックさん、見た感じ好青年なんだけどその年で指揮官やってるのが能力の高さを表してる。
「それで、魔王様は何を御所望だい?」
「えっとですね……その前に一緒に来てていただけます、護衛の方は口が堅い方のみで」
ここからは少し真面目な話になるので出来ればウルベリックさんののみが良いんだけど仕方ない。
「わかりました、デギン・ダギン、二人共来てくれ。後の皆は一度戻りいつでも出撃する準備を整えてくれ」
「「「「「かしこまりました!」」」」」
それからウルベリックさんとデギン・ダギンと呼ばれた二人が馬に乗って付いて来る。
「信頼されてるんですね」
寡黙な供二人を見ながら言うと、ウルベリックさんがため息をつく。
「あはは……正直、僕が殺された所で魔族に対して良い攻める口実が出来るから、王や他領の者達は止めませんしね……」
「なんかすみません……」
「あはは、謝らなくていいよ、最近王都もきな臭いし」
何かあったのだろう苦い顔をしている。
「きな臭いですか?」
「うん、何でもスラム街狩りをしてるとか。一部貴族を除く住民が消えるとか。変な魔獣の声がするとかだね」
「なんか、嫌な感じですね……」
そう言いうとウルベリックさんが意外そうな顔をする。
「へぇ……魔王様は王都を知っているんだね」
「はい、あそこで召喚されて追放されましたから」
「召喚? つまり魔王様は聖女様の?」
「えぇ、護衛をやっていますね……っとここです、セレーネ!」
大きな声で叫ぶと草陰からぴょこんと覗いてた目と合う。
「ユウキさん! なんかとてつもない事になってるんですけどアレなんですか!?」
土の壁を指差しながら言うセレーネ。まぁ、驚くよなぁ……。
「作った、後で壊すよ」
「はぇぇぇ……流石ですぅ……」
「凄いな……その子は
ウルベリックさんが驚いた顔でこちらへ来る。
「ユウキさんこの方々は?」
「えっと……人間側の軍の指揮官さん」
「ふぇぇえ!? 私とんだ失礼を!!」
慌てて頭を下げるセレーネ、魔王領に来る前みたいに人間に対してもう少し嫌な顔をすると思ったんだけど。あっけらかんとしている。
「セレーネ、連れて来た俺が言うのもなんだけど。大丈夫なの?」
「はい! この人ナタリアさんの旦那様ですよね?」
ナタリアさん? あぁ!!。
「思い出した! ミローズってあの街の名前か!!」
「「え?」」
「あはは……何でもないです……」
「それで、魔王様。ただ宝石獣の子を見せただけなのかい?」
「いえ、内容は彼女にも関係する事なんですが。昨日、宝石獣の里が襲撃され、宝石獣の子供達約20名程とリリアーナ姫殿下、私の妻が攫われました」
「は?」「え?」「なんですと!?」
ウルベリックさんが間の抜けた返答の瞬間、護衛の二人が初めて口を開いた。
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