第48話:思い出の大樹の上で。

リリアーナに部屋から追い出されリビング?に向かうと昏いランプの明かりが揺らめいている。


「ユウキさん?」


「セレーネ、良かった起きてたんだね」


「はい、何だか眠れなくて……」


「そっか、じゃあ外歩かない?」


空間収納アイテムボックスからコートを出して笑いかけるとセレーネも立ち上がる。


「わかりました、お勧めの所があるんですよ」


連れ立って外に出ると、篝火を焚きながら急ピッチで舞台が作られている。


「ユウキさんこちらです」


セレーネに手を引かれ明かりから離れる、少し森の中を進むと一本の大樹の前で立ち止まる。


「この上です」


「そっか、ちょっと待ってて」


「なっ!? 何を!?」


ジャンプで飛び上がろうとするセレーネをお姫様抱っこをした後、魔法で飛び上がる。


「いつもどのくらいまで上がるの?」


「……上の方です」


セレーネは顔が見えない様に手で隠しつつ大人しくしている。


「あっ、ここらへんなんですが……」


「枝が伸びちゃってるな……」


「待ってて下さい、やっぱり下から登って……」


「ほいっと、これで良い?」


リリアーナがハーレム入りしたお陰で【操血魔法】が使える様になったので、空中で使い枝を打つ。


「凄いです……これってリリアーナ様の……」


「うん、俺の能力でね。ハーレム入りした奥さんの能力が使えるようになるんだ」


「はえ~。あっ、ちょっとぶよぶよしてる」


つんつんと、つつきながらセレーネが笑っている。


「でも、この血はどうするんですか?」


「えっと……これに入れてて。後でリリアーナが綺麗にして飲むんだって、直接飲んで良いのにね……」


「あはは……」


苦笑いをしているセレーネを降ろして隣に座る。


「この樹に登るのも久しぶりですね……」


「良く登ってたの?」


「いえ、一人で考え事をしたい時や、親に怒られた時が主ですね」


「そっか」


「それで、ユウキさんは私に何か用事があったんですよね?」


「うん……」


そう言うとセレーネはこちらの目をしっかりと見る。


「覚悟はできてます……」


「そっか、それじゃあ」


「いえ、やっぱり良いです! 私じゃユウキさんのお嫁さんには!」


早口でまくしたて始めたセレーネ。


「ちょちょちょ! 待て待て早まるな!」


「え?」


「とりあえず話を聞いてくれ」


「は、はい!」


「セレーネは俺のお嫁さんになるのが嫌か?」


「嫌では無いですが……私はリリアーナ様やアミリア様と違って。地位がある訳でも、強い訳でもないですし……」


そう言って段々と小さくなるセレーネ。


「セレーネ。他人と比べなくても大丈夫だよ、セレーネがどうしたいかを考えてくれると俺は嬉しい」


「…………ください……」


セレーネが小さく呟く。


「ユウキさんの! お嫁さんにして下さい!!」


顔を上げたセレーネの顔に月明かりが差し込む、今まで見た事無いくらい真っ赤になっている。


「わかった、任せろ」


そう言うと、枝の上で不安定ながらも器用にすり寄って来たをセレーネを支える。


「おっと……っつ」


そのまま腕を引かれセレーネの顔とゼロ距離になる。


「あはは……やっちゃいました……」


照れて笑うセレーネ、そしてはずかしさからかぶんぶんと頭を振るとその髪が月の光を纏って輝きを帯びていく。


「え!? わわっ!? 何ですかこれ!?」


「あはは、すっごい綺麗だね」


「ちょっと~ユウキさん、助けて下さいよ~これじゃあ眠れませんって~」


「ちょっと待ってね……『——鑑定』」


鑑定をすると、セレーネの様な【虹の子】の髪は満月の日、月の光から魔力を得ることによって輝くらしい、しかもその魔力を帯びる事で神性が得られるとまでわかった。


「つまり、今のセレーネは神様みたいなものなんだって……それで大体2日程続くらしい……」


「えっ……それじゃあ寝る時どうすれば……」


「【人化】を解くのは?」


「そ、そうですね!」


一旦下に降りて樹の裏に行くセレーネ、十数秒後そこには全身が光り輝く小動物が居た。


(初めて宝石獣カーバンクルの獣状態を見た。耳は含め全体は猫っぽい、けど尻尾は狐みたいだな。あ、額にセレーネの宝石がある)


「きゅうん……」


「駄目だったか……ともかく着替えて来ると良いよ」


「きゅうっ!」


その2分後、一通り服を着替えたセレーネが戻って来た。


「駄目でしたぁ……」


「まさか全身が光ってるのは想定外だったね」


「はぃ……」


「うーん、ちょっと待ってて……あ、あった」


空間収納アイテムボックスからゲーム機のヘッドマウントディスプレイを取り出す。


「なんですかそれ!?」


「俺の世界の玩具なんだけど……まぁこの世界じゃ使えないので目隠し位になら使えるよ」


手渡してみるとセレーネがそれを装着する。


「よっとと……少し重いですね……」


「頭は痛くない?」


「はい、少し額の宝石にぶつかりますが、柔らかい素材なので大丈夫ですね」


「もし痛くなったら言ってね」


「はい!」


外し終えるとセレーネが手渡してくる。


「家に着いたら貸してくださいね!」


腕に抱き付かれその重みを感じながら、セレーネの家へ戻った。



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