第1話:恋慕


救出作戦を終えた翌日、私は無事家に帰ってきた。


「ただいま帰りました」


がらんどうとした家の中に虚しく私の足音が響く。


玄関扉を開け、靴を履き替える。


今日も両親は仕事らしい、姉二人はほぼ帰ってこないので寂しいがそこまで気にする事は無い。


「いただきます」


宅配アプリで頼んだ夕食をもそもそと食べる、いつも通りの味気の無い食事だ。


「みんなと食べるご飯…美味しかったなぁ…」


昨日一昨日で大人数で食べた食事、高級旅館というのもあるが、そもそも誰かと食べるのが本当に久しぶりだった。


学校では友人と呼べるような人は居なかったし近づいてくる人は打算目的や私の体か私の姉たちの体目当て、本当に嫌になる。


夕食を食べ終え自室のベッドでふとサイドボードに置いたスマホが目に入る。


手に取り連絡先を見る、新たに登録された4人、その中でも父親を除けば初めての男性の連絡先だ。


「あんなに男性の事嫌いだったんだけどね…」


彼は今迄会ったどの男性とも違った、初対面で出会って失礼な事をした自分の事を労ってくれたし自分の事より先に私の事を気にかけてくれた。


今迄出会ってきた相手が異常者なパターンもあるんだけどね…


初対面で胸を鷲掴みにしてきたナンパ野郎とか唐突に尻を触ってきたクラスのチャラ男とか…カッとなって殴り飛ばした事はある、その時も私に逆上するばかりで心配してもらった記憶しかない。


(それに彼は自分が怖くても人の為に動けちゃう人なんだよね)


救出作戦で彼が自衛隊員と話していた怖くないのかって質問に苦笑いしながら答えていた姿が浮かぶ。


そんな彼のことを思い手の中のスマホを弄びながらどんどん考えが深みに嵌まっていく。



◇◆◇◆

翌朝起きると、そのまま寝落ちしてしまった為か着の身着のままであった、シャワーを浴びる為浴室へ向かう。


(父さんも母さんも姉さん達も居ないか…)


リビングには昨晩帰った様子が無いのでそのままになっていた。


パンをトースターにセットし目玉焼き等のおかずを焼く、焼き上がったパンと袋入りのカット済みサラダ共に食べていく。


テレビをつけると朝のトーク番組に母が出ていた、きっと明日から始める主演ドラマの番宣だろう、軽快なトークで場を明るくしていく。


流石お母さん…私と違って話すのも上手いや。


洗い物を水に漬けソファーに深く座りぼーっとする、右から左へとテレビの音が流れていく。


神楽組の皆は今日各々転校前最後の学校の子達と遊んでいる様だ、あの無口の翠や普段やる気のない蒼ですら最後の別れを楽しんでいる。



◇◆◇◆

気が付けば夕方になっていた、入り込む西日に肌を焼かれてやっと気づいた。


スマホを見ると父と母からは今日も帰れない旨の連絡が来ていた、そうなると姉たちもだろう。


「あ、今日の夜ご飯…」


昼食を食べてないこともあり、お腹が鳴ってきた。


(二日連続で外食は体に悪いだろうし、今日は時間も余っているので夕食を作ろう)


身だしなみを整え外に出る、夕方とはいえまだ日が高く暑い時間である。


「あっついわね…」


それから30分程で駅前の石井スーパーに到着する、必要な物を買い帰宅の途へ着く。


繁華街を抜ける中、元気な高校生の集団が見えた、その中に見知った顔を見かけた、昨晩私の頭の中のトレンド1位になっていた彼である。


「きゃっ」


ぼーっとしていた為、運悪く前から歩いてきた人にぶつかってしまった…


「んじゃ、でめぇ…でけにめぃーつくてあるってりゅんだ!」


しかも運が悪くかなり泥酔している、コテコテなコントで見るくらいの泥酔っぷりだ。


「失礼しました、私急ぎますので」


足早に横を抜けようとする。


「ふじゃけんにゃ!ねぇ!」


あしらわれたのが感に触れたのか、男はいきり立って私の腕を握ろうとしてきた。


それをかわそうとした瞬間、本当に運悪く足元に転がっていた空き缶を踏んでしまう。


「うおぁ!」

身構えていた衝撃は訪れる事は無く、柔らかくて、それでいて筋肉質な感触があった、そして顔を上げると先程見ていた彼の顔が真上にあった。


「いててて、神楽坂さん大丈夫?」


「は?ふぇ?上…凪…さん?」


「はい、上凪です」


目をぱちくりさせて声が出る、それに返してくる上凪さん今の状態は彼の腕に抱かれた、つまりお姫様抱っこに近い状態だ、何ですかこれ漫画ですか?


頭の中がパニックになって変な事を考える、自分でも現実逃避してるのはわかってるが今の状態を認めると頭がパンクする。


「っつと、はい大丈夫?」


「はひぃ…だいじょうぶでし…こほん、大丈夫です」


「ふぇめえりゃないかってにしふぇるんだ!!」


さっきから放置されて、もう怒りなのか酩酊なのかからないくらい興奮した男が殴りかかってくる。


殴りかかる相手を優希さんは優しく受け流して、そのまま腕を抑え込む。


「はいはい、おじさんお酒飲み過ぎですよーうちの父さんも言ってるけど酒は飲んでも吞まれるなって言うでしょ?」


「いでででで!」


唖然としてると、優希さんと一緒に居た学生の人が警察官を連れてきた。


その場で男性は厳重注意を受け連れて行かれた、優希さんも相手が何をしでかすかわからないから無理はしないようにと怒られてしまった。





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あとがき



作者です。

ここからは又こっち世界に戻ります。


9万7千PVこえましたー

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