第2話:葛藤

上凪さんに助けられ、今は彼のお宅で夕食を御馳走になっていた。


「一体どうして…」


「ん?神楽坂さん冷やし中華嫌いだった?」


「い、いえ…好きですが…」


「なら、良かった遠慮しないで食べてね」


「はい、ありがとうございます…」


「いや、待ってください!」


「どうしたんですか神楽坂さん?」


「いえ、大丈夫です!上凪さん!」


「あらー上凪さんじゃ私か優希か、わからないじゃないの。名前で呼ばないと」


と上凪さんのお母さんからキラーパスが飛んでくる。


「えっと…では、ゆ・・・優希さん」


「はい?どうしました?」


「ですから、何で私はここでご飯を食べてるんでしょう?」


「なんとなく…流れで?」


「えぇ…」


「まあうちの学校のクラスメイトが迷惑かけたからね~」


そして家の前が自宅という耀さん(名字で呼んだら怒られた)も一緒だ。


「その事なら気にしなくても…」


あの騒動の後、彼のクラスメイトに私の幼少期の事を知っている人が居てそのせいで囲まれてしまったのだ。


「いやあれは本当に申し訳ない…」


しかも囲まれたところを彼にお…お姫様抱っこで連れ出されてしまった。


「いえいえ、助かりました…それに夕暮れの街をあんな風に跳ぶなんて初めてでしたので」


夕暮れ時の街を高いところから見下ろしながらビルからビルへ飛び移るなんて今まで生きてきて初めてだしそれこそ映画でしか見ないような光景が綺麗すぎてお姫様抱っこされてる時の恥ずかしさなんて忘れてしまっていた。


「そう?楽しんでもらえたら運んだ身としては良かったよ」


「ねえねえ今度は私もやってね!」


「耀は自分で空飛べるでしょ…」


「いいの、優希にお姫様抱っこで運んでもらいたいの!」


「うっ…わかりました。その内ね」


やはり前回会った時から思っていたがお二人の距離がやたら近い…やはりそうゆう関係なのだろうか…


「それで…お二人の関係は…ってすみません…不躾な質問を!」


つい口から出てしまった、聞くはつもりの無かった質問…言ってしまった瞬間しまったと思ってしまう。


「あー私と優希ね、婚約者よ」


「……っつ」


胸に走る痛み、聞きたくなかった一番の答えだ。


って、私は何を!?、高々初対面で優しくしてもらって、助けてもらって、お姫様抱っこでロマンチックな景色見ただけじゃない!、それに彼は私の子役時代の事も、パパの事も、ママのことも知らないし、知ってもすり寄る事をしてこないだけじゃない!冷静になるのよ私!そんなんじゃ又、チョロインとか言われてしまうわ!気を付けるのよ私!冷静に冷静に冷静に…ブツブツ

「冷静に冷静に冷静に冷静に…」


「神楽坂さん!?大丈夫?なんかいきなり独り言が始まったけど!?」


そう優希さんに言われ私はハッとなる。


「大丈夫!大丈夫です!優希さんは気にしないでください!」


「あっ、はいわかりました…」


しゅんとなる彼、ああもう可愛いんだから!


思わずそう思ってしまう。


私と身長があまり変わらない彼、そして幼さの残る顔立ちだからこそ他の男性とは違うように見えてくる。


(駄目駄目!あの人は耀さんの婚約者なんだから!)


こうゆう時姉さんならどうするんだろう…


流石に三人目の娘まで他人の婚約者を奪うとかしたら週刊誌のいい的だ。


「とにかく!気にしないでだいじょうぶです!」


少し伸びてしまった冷やし中華をを黙々と食べる。


「あっ、美味しい…」


「よかったー母さんの冷やし中華は自家製だからね、美味しいと言ってもらえると母さんも喜ぶよ」


「え?この麵も自家製なの?」


「ええそうよ、最近パスタマシンを優希が買ってくれたのよ~楽しくなっちゃって色んな麺から作ってるのよ~」


優希さんのお母様がニヤニヤしながら追加のトッピングを持ってきた。


「神楽坂ちゃん、これ味変用の肉みそと坦々用のスープよ、辛い物は大丈夫?」


「あっ、はいだいじょうぶです」


「よかったーじゃあいっぱい食べてね、お代わりもあるわよ」


背後に積んであるあれは茹でる前の麺なのだろう…あれ20人前くらいあるよね…


「母さん…また作り過ぎたんでしょ…」


「あーあはは…つい楽しくて…」


「はいはーい、優佳さん!おかわり!」


「耀はよく食べるなぁ…」


それから、久しぶりの家族団欒と呼ばれるような光景が繰り広げられ、私は楽しく夕食を終えるのであった。




◇◆◇◆

「あー楽しかったなぁ…」

優希さんに家の近くまで送ってもらい家に帰ると、珍しく人の気配があった。


「ただいま帰りました」


「あらー鈴香ちゃんおかえりーお家に居ないからママ心配しちゃった」


「おぉ、鈴香帰ったのか!帰ったら誰も居なくてパパ心配したぞ」


久々に見る両親の顔を見て心がほっとする。


「お父さん…お母さん…」


「そこはパパと呼んでくれないのか…」


「ママとよんでほしいわ…」


「あーうん…ゴメンパパ、ママ」


そう答えると二人は万遍の笑みを浮かべる。


「最近は中々帰れなくてすまないね」


「いえ…いつまでも子供じゃないので大丈夫ですよ、それに友達も出来たし…」


「そうなのか!?これは嬉しい事だ!友達の家に行ってるなんて初めての事じゃないかな?」


「そうねぇ~お祝いしなきゃ~あっそれよりもお相手に挨拶が必要じゃないかしら?」


二人は私を置いてワイワイ騒ぎ始める。


「いいですから別に!」


「そうか…それでそのお友達の名前は?」


「えっと…上凪優希さんと水城耀さんって人よ、探索者のお仕事で一緒になったの」


その名前を出した瞬間二人の目の色が変わった…


あぁ、どうして忘れていたんだろう…


この人たちは自身の欲求に対して素直なのだ…


いつもこうなのだ…こうなってしまうと私の事はもう見えない…


今迄感じていた幸福なんて全て無かったかの様に昏いモノが心の中から湧き出る…


「鈴香、今度その二人を紹介しなさい」


「そうね是非ともお近づきにならなきゃ!」


「……わかりました、お父様、お母様」


もう私の声は聞こえてない、諦観と拭えぬ昏いモノと共に私は自室に塞ぎ込んだ。





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あとがき



作者です。

最後の落差に風邪引きそうな今日この頃です。


9万8千PVこえましたー

♡毎話ありがとうございます!

ブクマの新規登録ありがとうございます!


ちょいとここ数日立て込んでてストック使い切ったので今日は頑張って書いてます!

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