20.結びの証④
千里小路千虎の襲撃から一週間。
その間、芽衣胡と華奈恋はまた入れ替わっていた。
華奈恋が『松若で暮らすより光明寺のほうがまだいいわ』と言ったため、證もためらいなく芽衣胡を松若邸に連れ帰っていた。
その間、芽衣胡は梅子がどうして双子を忌避しなければならないのか説明するために、自分の能力のことも證にきちんと話したのだった。
そして今日は梅子の元へ行くことになっている。
「緊張しているのか?」
「はい。梅子様は双子と聞いたら錯乱されると聞いています。そのような方に双子の存在を認めていただけますでしょうか?」
光明寺に捨ててまで隠さなければならなかった双子という存在に会った時、梅子はどうなるだろうと芽衣胡は胸を痛める。
祝言の日に見た梅子は元気そうだったが身体の調子はあまり良くないと聞いている。
「大丈夫だ。大丈夫だと、胸を張ってお会いしよう。芽衣胡はここにきちんと存在しているのだと分かってもらうために」
「はい」
證が芽衣胡の小さな手を握る。
万里小路邸に着くと客間に案内された。そこにはすでに華奈恋と幸子、それに通綱が待っている。
「いらっしゃい證さん、芽衣胡」
「芽衣胡、元気だった?」
「こんにちは、お母様、お父様。華奈恋は元気そうね」
「ええ、武満さんが毎日光明寺に来てくださるから。ふふっ」
華奈恋の雰囲気が柔らかくなったことに気付いた。
「武満さんって、手を怪我された? えっ、どういうこと?」
「ふふふ。仲良しということよ!」
「お義父様、お義母様、華奈恋さん。こんにちは」
證が挨拶するが、華奈恋はちらっと見て芽衣胡に視線を戻す。
「一応私はあなたの夫なのですが」
「知らないわ。わたくし證様と祝言をあげた記憶がございませんので」
「確かに。そうですね」
「だから今日は何が何でもおばあ様を説得いたしますわ。芽衣胡、頑張りましょうね」
「うん、頑張ろうね」
「證くん」
通綱が證に声を掛ける。
「はい」
「千里小路の処分をこちらに任せてくれて感謝する」
證はあの日、捕縛した千虎と樒を警察に連れて行こうとしたが、通綱に嘆願され、二人の処分を通綱に任せていたのだ。
小見職が解体されたとはいえ、能力を持つ一族の扱いは繊細だ。能力が世に露見しないため事件や事故を闇に葬ることや、秘密裏に処理することもある。
「詳しくは話すことが出来ないのだが千里小路千虎はもう表に出てくることはない」
通綱の目を見た證は、千虎がもうこの世にはいないか、それと同様の扱いとして裏に封じられたかどちらかだと思った。
「さあさあ! おばあ様、今起きていらっしゃるみたいだから行きましょう」
幸子が手を叩いて空気を変える。
いよいよ梅子との初対面となる芽衣胡は生唾を飲み込んだ。
梅子の部屋は日当たりの良い場所にあり、部屋の中にも太陽の光が差し込んでいる。
「おばあ様。華奈恋です」
「あら、どうしたの?」
華奈恋が襖を開けるとひじ掛け椅子に座る女性がいた。
「そちらは?」
華奈恋が部屋の中に入ると、華奈恋の背中に隠れていた芽衣胡の姿が梅子の目に入る。
「あら? え? 華奈恋ちゃんがふたり?」
梅子は両手を重ねて胸の上に置く。
「はじめまして。芽衣胡と申します」
「芽衣胡さん? えっと、そちらは、もしかして清矩様のお孫さんだったかしら? 華奈恋ちゃんをもらってくれた松若證さんよね?」
證が梅子の前で膝をつき、頭を垂れる。
「はい。ご無沙汰しております梅子様。今日はお願いがあって参りました」
「願いがあるの? わたくしに叶えられることかしら?」
「はい。梅子様にしか叶えることができないことです」
「そうなのね。じゃあそのお願い事を聞かせてくれるかしら」
證は芽衣胡に愛しさのこもる眼差しを向けて、それから梅子に視線を戻した。
「私が望むのは華奈恋さんではなく、こちらの芽衣胡さんなのです」
「清矩様との約束を果たしてくれたことにはとても感謝しているわ。でも華奈恋ちゃんでなければ駄目よ? この子はどちらの子?」
「おばあ様」
「なあに華奈恋ちゃん」
華奈恋が梅子のしわくちゃの手を優しく取る。
「わたくしと芽衣胡は、そっくりでしょう?」
「待って。まさか……そのようなことが。違うわよね?」
梅子は首を振る。華奈恋はそんな梅子に考える間を持たせず事実を告げた。
「わたくしたちは、おばあ様と同じ、双子なの」
「ふたご――」
「梅子様。華奈恋さんも芽衣胡さんもあなたの孫です」
「双子が生まれたなんて聞いてないわ!」
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