2.金色の光と桃色の光③
――死ぬの?
わたしは要らない子だから死ぬのかな?
わたしが見えない子だから死ぬのかな?
みんなは無事かな?
みんなが無事でありますように。
仏様、どうかどうか。
みんなをお守りください。
みんなが私のような最期を迎えないために。
どうか仏様お願いいたします。
芽衣胡の目に闇が落ちる。無明の世界はなんと真っ暗なことかと、闇に揺蕩う。
無音の世界はひどく静かで自分の存在が曖昧に溶けていく感覚。それと同時に首の痛みも薄れていく。
線香の煙が消えていくように、自身の身体が闇に溶け、消えてなくなるようだと芽衣胡はぼんやりと感じる。
いくらか時間が過ぎただろうか。もしかすれば時計の針はいくらも進んでいないかもしれない。時間さえ無限に感じる、その暗闇の中。針で穴を開けたような、金に光る点が灯る。
人は亡くなった後、お浄土に行くのです。と光生はいつも説教していたので、芽衣胡はそれを思い出した。
――ああ、あれがお浄土なんだ。
小さな光がゆっくりと大きさを変えていく。否、大きさが変わっているのではない。芽衣胡が近付いているのだ。
闇を揺蕩ううちに芽衣胡は徐々に移動しているようだった。
芽衣胡よりもすっかり大きくなった金光は、何やら人の形に見えなくもないと芽衣胡は思う。
『探すのです』
金光から温かく包み込むような声がする。
「え?」
問い返しながら芽衣胡は、きっとこれは仏様だと思った。光明寺の本堂で仏様に手を合わせるときに感じる温かさと同じだったからだ。
『ハンシンを見つけるのです』
「ハンシン? あの、ハンシンとは何ですか?」
芽衣胡の問いには何も帰って来ない。
しかし、金光の横から桃色の小さな光が現れると芽衣胡を覆う。
『これは慈悲です。あなたが毎日欠かさず手を合わせる姿を見ておりました。仏を敬う清らかな心を持つあなたへ慈悲を与えましょう。あなたは目が不自由なばかりか、親に捨てられても心が曲がることなく素直に育ち、今日まで信心深く過ごしてきましたね。しかし理不尽にも殺されてしまったあなたに仏より慈悲を与えます。一度だけ輪廻の理を戻しましょう。導きに従い、ハンシンを見つけなさい。さすればあなたの運命は転じましょう』
言い終わったとばかりに金光は急速に小さくなると針の穴に帰って行く。
「え? 仏様? お待ちください! 待って、ねえ、待って!!」
芽衣胡の制止の声は届かず、また無明に戻る。足元さえ曖昧で立っているのか浮いているのか定かではない、なんとも妙な浮遊感が襲ってくる。
それからどうしてか目蓋が重くなった。
ああ、きっと今度こそお浄土に召されるのだろう――と芽衣胡は目蓋の重みに抵抗するのを止め、全ての力を抜いた。
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