第151話 猫は不調を隠す

 猫は、体の不調ふちょうかくす動物と言われている。


 自然界しぜんかいでは、弱ったものから、天敵てんてきわれるからだ。


 ヒョウ兄貴あにきも、ケガをかくして、我慢がまんをしている猫だった。


 きっとミケさんも、病気をかくしているんだ。


 そういえば、ミケさんが茶トラ先生に診察しんさつされているところを、見たことがない。


 たぶん、茶トラ先生も、ミケさんの病気に気付いていない。


 もしかしたら、ケガや病気をかくしている猫が、他にもいるかもしれないな。


 何はともあれ、苦しんでいる猫は放っておけない。


 ミケさんには、いつまでも元気で、長生きして欲しい。


「ミャ」


 ミケさん、ヨモギのお薬を作りましたので、飲んで下さい。


「お薬にゃ? 別にどこも、悪いところはないけどにゃ」


「ミャ?」


 ミケさん、あちこち具合が悪いでしょう?


 かくしても、お医者さんのぼくには、分かりますよ。


「やれやれ……シロちゃんには、かなわないにゃ。分かったにゃ、飲むにゃ」


 ミケさんは、あきらめた顔で、ヨモギの薬を飲んでくれた。


「ミャ」


 あと、おやつに猫草ねこくさも食べて下さいね。

 

猫草ねこくさは、美味しいけど、たくさんまなきゃいけないから、あごつかれちゃうにゃ」


 もともと、猫は、食べ物をあまりまずに、すぐに飲み込んでしまう。


 でも、猫草ねこくさだけは、食感しょっかんを楽しむために、良くんで食べる。


 だけど、年を取ると、あごの筋肉がおとろえて、めなくなる。


 まないと、歯周病ししゅうびょうは悪くなる一方いっぽうだ。


「ミャ」


 おやつに、数本食べるだけで充分じゅうぶんですから。


 一緒に、食べましょう。


 ぼくはそう言って、猫草ねこくさを1本し出した。


「はいはい、分かったにゃ」


 ミケさんは苦笑くしょうすると、猫草ねこくさを受け取って、シャクシャクと食べ始めた。


 一緒に、おやつの猫草ねこくさを食べながら、ミケさんに問いかける。


「ミャ?」


 なんで、病気をかくしているんですか?


「みんなに、心配をかけたくないからにゃ……」


 ミケさんは、猫草ねこくさみながら、ぽつりと言った。


 ミケさんも集落しゅうらくの猫達も、優しい猫だからな。


 ミケさんが病気だと知ったら、みんな心配するだろう。


 心配をかけたくない気持ちは、分かる。


 だけど、だまって病気を悪化あっかさせて、早く死なれた方が悲しい。


 ぼくは、ニッコリとやさしく笑いかける。


「ミャ」


 だったら、ぼくとミケさんだけの秘密ひみつにしましょう。


 ぼくが、ミケさんの担当医たんとういになって、ミケさんの病気をなおしますから。


「やっぱり、シロちゃんには、かなわないにゃ」


 ミケさんはちょっとおどろいた顔をした後、声を立てて笑い出した。

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