第149話 天は二物を与えず

 やっぱり、自分の生まれ故郷こきょう集落しゅうらくは良いなぁ。


 見慣みなれた景色けしき


 れた空気。


 顔見知かおみしりの猫達。


 旅の間、いくつも集落しゅうらく縄張なわばりにも立ちったけど。


 自分の集落しゅうらくは、安心感あんしんかんが全然違うなぁ。


 集落しゅうらくにいた頃は、ずっと旅にあこがれをいだいていたけれど。


 実際じっさいに、旅へ出てみたら死ぬほど大変で、旅の間ずっと集落しゅうらくに帰りたいと思っていた。


 集落しゅうらくからはなれればはなれるほど、帰りたいという気持ちが強くなった。


 帰って来たら、「もう、旅はいいや」って、気持ちになってしまった。


 もしかしたら、時間がてば、また旅へ出たいという気持ちになるかもしれない。


 そう思う時が来るのかどうかも、分からない。


 今はとにかく、集落しゅうらくでのんびりしたいという気持ちが強かった。


 しばらくは、イチモツの集落しゅうらくから出たくない。


 それに、ずっとやりたいことがあったんだ。


 イチモツの集落しゅうらく象徴しょうちょうとなっている、イチモツの巨木。


 やっと、イチモツの木を『走査そうさ』することが出来る。


 ぼくは、イチモツの木に向かって、手をかざして『走査そうさ』してみる。


対象たいしょう:イチモツ科イチモツ属イチモツ』


概要がいよう猫神ねこがみが、猫達にさずけた植物。イチモツの木に登り、を手にした猫だけが、のぞむ力をあたえられる。他の猫が登って取ってきたを、登らなかった猫が食べた場合は無効むこう


 え? イチモツの木って、そういうものだったの?


 のぞむ力をあたえられるってことは。

 

 この木に登ってを食べれば、何度でも新しい力をられるってこと?


『ただし、効果こうかは1度かぎり』 


 1度だけか~……。


 本当は、どんな病気も治せる医療技術いりょうぎじゅつとか回復魔法が欲しかったんだけど。


 欲しい力が、何度もあたえられるなんて、そんな上手い話はないよなぁ。



――――――――――――


てん二物にぶつあたえずとは?】


「天(神様)は、いくつも長所や才能をあたえてくれない」という、ことわざ。


 しかし、対義語たいぎごに「博学多才はくがくたさい(知識がゆたかで、多くの分野ぶんやの才能にめぐまれている)」という、ことわざもある。




【イチモツの木の由来とは?】


逸物イチモツすぐれたもの)」を、「一物イチモツ(ひとつのもの)」だけあたえてくれるという意味。


 ただし、猫以外のねがいは、かなえてくれない。

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