第148話 旅の思い出

 ぼく達の帰りをむかえてくれた猫達の中に、お医者さんであり、ぼくの師匠ししょうである茶トラ先生がいた。


「シロちゃん、おかえりなさいニャ~。無事に帰って来てくれて、とっても嬉しいニャ~。ケガや病気は、してないかニャ~?」


「ミャ」


 この通り、ぼくも、お父さんもお母さんも、みんな元気です。


 集落しゅうらくの皆さんも、お元気でしたか?


集落しゅうらくの猫達も、みんな元気ニャ~。みんな、シロちゃん達の無事を祈って、帰ってくるのを、ずっと待ってたニャ~」


 旅の間、集落しゅうらくのみんなは、ぼく達の無事を祈ってくれていたのか。


 ぼく達が大きなケガや病気をせずに、無事で帰って来られたのは、みんながぼく達の無事を、祈ってくれていたからかもしれない。


 みんなの優しさに感動かんどうしていると、長老ちょうろうのミケさんが近付いてくる。


 ミケさんは優しく笑って、ぼくの頭をでしてくれた。


「シロちゃん、おかえりにゃ」


「ミャ」


 ただいま帰りました。


 ミケさんも、あれから、お変わりありませんか?


「この通り、ワシは元気にゃ。旅は、楽しかったかにゃ? 旅でどんなことがあったのか、ぜひとも、お話しを聞かせて欲しいにゃ」


「ミャ」


 ぼくも、ミケさんには、お話ししたいことが、たくさんあるんです。


 ぼくがそう言うと、他の猫達も興味津々きょうみしんしんで、旅の話を聞きたがった。


 集落しゅうらくの猫達は、狩り以外で集落しゅうらくの外へ出ることはない。


 だから、外の世界をほとんど知らないんだ。


 ぼくはさっそく、旅であったことを、みんなに話して聞かせた。


 いくつもの集落しゅうらく縄張なわばりに、立ちったこと。


 森の外には草原があり、大きな山の向こうには海があったこと。


 たくさんの猫達との出会いがあったこと。


 いろんなケガや病気を治して、多くの猫達をすくったこと。


 治せないケガや病気があったこと。


 死を見たこと。


 トマークトゥスにおそわれて、お父さんとお母さんとはぐれてしまったこと。


 話しているうちに、旅の思い出が、次々とよみがえる。


 決して、ラクな旅ではなかった。


 ツラいことや大変なことが、たくさんあった。


 でも、今となっては、全部良い思い出だ。


 お父さんもお母さんも、一緒になって、「こんなことがあった」と、話し出す。


 ミケさんも、「ワシの時はこうだった」と、なつかしそうな笑みを浮かべて、話に参加する。


 旅の思い出は、話しても話しても、なかなかきることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る