第134話 イチモツの森

 灰白猫の縄張なわばりを出て、数日後。


 ようやく、山を越えた。


 後ろには大きな岩山、目の前に広がる大草原だいそうげん


 大草原だいそうげんの向こうに、ぼく達の生まれ故郷こきょうである大きな森が見えた。


 森で一番大きな、イチモツの木のてっぺんも、見えている。


 あの大きな木の下に、ぼく達の集落しゅうらくがある。


 青々あおあおとした森と、イチモツの木を見ると、森から出た時のよろこびとは、また違ううれしさで、胸がいっぱいになった。


 やっと、ここまで戻って来たんだ。


 ここまで、本当に長かった。


 なつかしさが、胸に込み上げてくる。


 もうすぐ、イチモツの集落しゅうらくへ帰れるんだ。


「ミャ!」


 お父さん、お母さん、ぼく達の森が見えたよ!


 あともうちょっとで、集落しゅうらくへ帰れるよっ!


「嬉しいニャー、あともうちょっとニャー」


「ミケさんやサビさんは、元気かニャ? みんなと、早く会いたいニャ」


 故郷こきょうの森を見て、お父さんもお母さんもうれしそうに笑っている。


 やっぱり、ふたりもイチモツの集落しゅうらくへ戻れるのが、うれしいんだな。


「ミャ!」


 お父さん、お母さん、帰ろう!


 集落しゅうらくのみんなが、ぼく達が帰って来るのを待っているよ。


 ぼく達は大きくうなづき合うと、森へ向かって、大草原だいそうげんをまっすぐけ出した。


 森へ近付いていくと、よろこびもどんどん大きくなる。


 旅へずに、ずっとイチモツの集落しゅうらくにいたら、こんな気持ちは知らなかっただろうな。


 旅の間、大変なことがいっぱいあったけど、この気持ちを知れただけで、旅に出た意味はあったと思う。


 ぼく達は森へ向かって、ひたすら走り続ける。


  のどかわいたら、川の水を飲み、おなかがいたら、草原にいる草食動物を狩る。


  走り疲れたら、お父さんとお母さんと寄りって、お昼寝をしてひとやすみ。


 そして、とうとう、イチモツの森へ、たどり着いた。

 

 清々すがすがしい森の匂いをいで、思いっきり深呼吸しんこきゅうすると、「帰ってきたんだなぁ」と、実感じっかんする。


 やっぱり、森は良いなぁ。


「おかえりなさい」とでも言うように、風に吹かれて木々がざわめき、鳥達が鳴いている。


「ミャ!」


 ただいま! イチモツの森っ!


 ぼく、ちゃんと帰って来たよっ!

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