第133話 猫は自分の死期を悟る

 灰白猫の縄張なわばりを、旅立つ日がやって来た。


 灰白猫が心配だけど、きっと、灰ブチ猫が最期さいご見届みとどけてくれるだろう。


 ぼくは、イチモツの集落しゅうらくへ帰らなくてはならない。


 灰白猫を見ていたら、長老のミケさんと会いたくなった。


 ミケさんもお年寄としよりの猫だし、元気でらしているかどうか、心配なんだよね。


 もしかしたら、今頃、病気で苦しんでいるかもしれない。


 イチモツの集落しゅうらくにいた頃は、まだ『走査そうさ』の使い方が、あまり分かっていなかった。

  

走査そうさ』のあつかいにれた今は、手術が必要な病気でなければ、どんなケガや病気も治せる。


 あと、イチモツの木を、『走査そうさ』してみたいんだよね。


 もしかしたら、何か新しい発見があるかもしれない。



 旅立つ前に、灰白猫にっている、灰ブチ猫に挨拶あいさつをしに行った。

 

「ミャ」


 ぼくが出来るのは、ここまでです。


 ぼく達は、自分の縄張なわばりへ帰ります。


 どうか、灰白さんを最期さいごまで、大事にしてあげて下さい。


「仔猫のお医者さん、本当にありがとうナォ。教えてもらえなかったら、ずっとおばあちゃんの病気を知らないままだったナォ。これからも、おばあちゃんがくなるまで、ずっと側にいるナォ」


 灰ブチ猫は、この数日で、やつれた気がする。


 灰白猫に付きっきりで、介護疲かいごづかれをしているのかもしれない。


「ミャ」


 灰ブチさん、ご自分の体も大事にして下さいね。


 ぼくがそう言った時、ずっと寝たきりだった灰白猫が、ゆっくりと目を開ける。


「仔猫ちゃん、こんな私の為に、色々してくれて、ありがとナ~ウ……仔猫ちゃんも、どうか元気でナ~ウ」


 灰白猫は優しく笑って、ぼくの頭をでてくれた。


 頭をでられた時、何故か、「灰白猫は、自分の命がもう長くないことをさとっている」と、気が付いた。


 動物は、本能的ほんのうてきに自分の死期しきさとるらしい。


 昔から、「猫は自分の死期しきさとると姿を隠す」と、言われている。


 猫の姿を見かけなくなったと思ったら、数日後に、誰にも知られずにひっそりとくなっていることが多いらしい。


 巣穴すあなの中で、出血多量しゅっけつたりょうくなったシロチャ猫のように。 


 でも、灰白猫は、最期さいごの時まで、灰ブチ猫が側にいてくれるはずだ。


 ここでおわかれしたら、きっと、もう二度と灰白猫とは会えないだろう。

 

 ぼくは、灰白猫に抱きいて、最期さいごわかれをしんだ。

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