第131話 余命宣告する医者の気持ち

 灰白猫がねむってしまったので、代わりにおまごさんの灰ブチ猫に、話を聞いてみる。


「ミャ?」


 この縄張なわばりに、お医者さんはいますか?


「お医者さん? この縄張なわばりには、いないナォ」


 やっぱり。


 ぼくが「お医者さん」だと言った時、「おばあちゃんの病気を治して欲しい」と言われたから、そんな気はしていた。


 もし、ここにお医者さんがいたとしても、「クッシング症候群しょうこうぐん」と「慢性腎不全まんせいじんふぜん」を、治すことは出来なかっただろう。


 この世界に、どんなケガや病気も治せる技術や魔法があったら、話は別なんだけど。


 これまで、魔法とは一度も出会えていない。


 魔法らしいものと言えば、「イチモツの」くらいだろうか。


「イチモツの」でさずけられた「走査そうさ」は、スゴく便利で、いつも助かっている。


 今では、ぼくにとって、なくてはならない能力になっている。


「イチモツの」からあたえられる能力は、ひとつだけなのかな。


 いくつでも能力をられるのなら、医療技術いりょうぎじゅつが欲しい。


 手術が出来るようになれば、手術しないと治らない病気も、治せるようになる。


 贅沢ぜいたくを言うなら、治癒ちゆ魔法が欲しい。


 手をかざして祈るだけで、どんなケガや病気も治る魔法って、あこがれるよね。


 人間の頃から、「あの力があったら」と、何度思ったことだろう。


 イチモツの集落しゅうらくへ帰ったら、長老のミケさんに聞いてみよう。


 とりあえず、今は、この縄張なわばりの猫達に、薬草の見分け方と薬の作り方を教えよう。



 縄張なわばりの猫達に、薬の作り方を教えた後。


 誰もいないところに、灰ブチ猫だけを呼び出して、重要じゅうようなことを伝える。


「ミャ……」


 あの……おばあさんは、とても重い病気で、ぼくには治せません。

 

 イヌハッカやヨモギを食べれば、少しは良くなるかもしれません。


 ですが、あまり長くないと思います。


 どうか、出来るだけ、そばにいてあげて下さい。


 ぼくの力がおよばなくて、本当に申し訳ございません……。


 そう言って、ぼくは深々と頭を下げた。


 余命宣告よめいせんこく(命があともう少ししかないことを伝える)をするお医者さんは、こんな気持ちなのか。


 悲しくてくやしくて、涙が止まらない。


 ぼくに手術が出来たら、助けられたのに。


 手術したら、もっと長生き出来たはずなのに。


 ぼくは、緩和療法かんわりょうほう苦痛くつうを軽くする治療ちりょう)くらいしか出来ない。

 

 泣きじゃくるぼくを、灰ブチ猫が優しく抱き寄せてくれた。


「それを知れただけで、充分じゅうぶんナォ……おばあちゃんの為に泣いてくれて、ありがとうナォ」

 

 それからしばらく、ぼくと灰ブチ猫は抱き合って、ふたりで泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る