第130話 イヌハッカの誘惑

 イヌハッカは、レモンのようなさわやかな良いにおいがする。


 イヌハッカをちぎっていると、においが広がったのか、縄張なわばりの猫達が集まって来る。


 その中には、お父さんとお母さんもいた。


「ふにゃあ~ん」


「にゃお~ん」


 みんな、夢中でふんふんと、イヌハッカの匂いをいでいる。


 興奮状態で葉をかじったり、うっとりした表情で、葉に体をスリスリとこすりつけたりしている。


 前に調べたところによると、この香りをいだ猫は、幸福感こうふくかんを感じたり、興奮こうふんしたり、リラックスしたりするそうだ。


 良いにおいではあるんだけど、ぼくはなんともないな。


 確か、猫の30%は、イヌハッカに反応しないと言われている。


 あと、未成熟みせいじゅくな生後6ヶ月以内の仔猫も反応しないらしい。


 ぼくがなんともないのは、たまたまその30%の猫なのか、それとも体が仔猫だからなのか。


 どちらにせよ、イヌハッカの匂いに反応しなくて、ガッカリ。


 猫になって、イヌハッカやまたたびの匂いをいだら、どんな気分になるのか、ためしてみたかったのに。


 とりあえず、猫でも食べられる数少ない草なので、食べてみたい。


 口に入れてみると、シャクシャクとした歯ごたえで、草特有の苦味を感じる。


 だけど、ほんのり苦い野菜という感じで、サラダ感覚で食べられる。


 レモンみたいな匂いが、口の中に広がって、気持ちもおなかもスッキリ。


 薬効やっこうに、食欲増進しょくよくぞうしんとか、胃腸を良くするとかあったもんな。


 これなら、灰白猫も元気になるかも。


 しばらくすると、猫達は気がんだように立ち上がって、はなれていった。


 あれ?


 そういえば、イヌハッカの有効時間ゆうこうじかんは、5~15分くらいだったっけ。


 またたびのように、中毒性ちゅうどくせいがなくて、安全だと聞いたことがある。


 今の猫達も、効果が切れたんだろう。


 もうちょっと、イヌハッカにう可愛い猫達を見ていたかった。


「ミャ」


 灰白さん、どうぞ。


 ってきたイヌハッカの束を、灰白猫の顔に近付けてみる。


 眠っていた灰白猫は、鼻をヒクヒクさせた後、うっとりと幸せそうな顔になる。


「ふにゃぁ~ぅ……良い匂いナ~ゥ」


 目を閉じたまま、スリスリと、イヌハッカに顔をこすり付けている。


 どうやら、灰白猫もイヌハッカの効果がある猫だったようだ。


 灰白猫は、イヌハッカの葉に顔をうずめたまま、また眠ってしまった。


 本当は食べて欲しかったんだけど、匂いをにおいだだけで、満足してしまったみたい。


 これで、良かったのかな?

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