第128話 治せない病気

 猫回虫ねこかいちゅう駆虫くちゅうしてから、数日後。


 川で水を飲んでいる、1匹の灰白猫を見つけた。


 さっそく、その猫に声を掛ける。

 

「ミャ」


 初めまして、こんにちは。


「はいはい、こんにちわナ~ウ。どちらの仔猫ちゃんナ~ウ?」


 灰白猫はお年寄りの猫らしく、のんびりとした口調で答えた。


 お年寄りの猫は、毛並けなみがボサボサだから、見た目で分かりやすい。


 年を取ると、体があまり動かなくなって、毛づくろいをしなくなるからだ。


 それに、お年寄りの猫は、水をたくさん飲むようになるらしい。


「猫がたくさん水を飲むようになったら、病気をうたがえ」と、言われている。


 猫は、腎臓じんぞうの病気になりやすいんだとか。


「猫の3割は、腎臓病じんぞうびょうかかる」と、いうデータもある。


 お年寄りの猫は、特に注意が必要と言われている。


 この灰白猫も、さっきから、水をたくさん飲んでいるから心配なんだよね。


 とりあえず、灰白猫に話をしてみる。


「ミャ」


 ぼくは、お父さんとお母さんと3匹で旅をしてます。


 あなたは、この辺りにんでいるんですか?


「そうナ~ウ。この先にある、縄張なわばりにんでいるナ~ウ」


「ミャ?」


 もし良かったら、あなたの縄張なわばりへ案内してくれませんか?


「良いナ~ウ。着いてくるナ~ウ」


「ミャ」


 ありがとうございます。


 灰白猫は、足腰あしこしも弱っているらしく、ヨタヨタと歩き出す。


 どうしても気になって、灰白猫に向かってこっそりと、『走査そうさ』してみる。


症状しょうじょう:クッシング症候群しょうこうぐん慢性腎不全まんせいじんふぜん


『クッシング症候群しょうこうぐん処置しょち経蝶形骨洞的けいちょうけいこつどうてき下垂体腫瘍かすいたいしゅよう摘出術てきしゅつじゅつ放射線治療ほうしゃせんちりょう副腎皮質ふくじんひしつステロイド合成阻害薬そがいやく投与とうよ


慢性腎不全まんせいじんふぜん処置しょち血液透析けつえきとうせき腎移植じんいしょく、ACE阻害薬そがいやく・アンギオテンシンII受容体じゅようたい拮抗薬きっこうやく投与とうよ


走査そうさ結果』を見て、絶望ぜつぼうした。


摘出術てきしゅつじゅつ」とか「腎移植じんいしょく」ってことは、手術しなきゃいけないってことだ。


 外科手術げかしゅじゅつなんて、出来るはずがない。


 放射線治療ほうしゃせんちりょう血液透析けつえきとうせきも、出来ない。


 副腎皮質ふくじんひしつステロイド合成阻害薬そがいやく、ACE阻害薬そがいやく、アンギオテンシンII受容体じゅようたい拮抗薬きっこうやくなんて、手に入らない。


 こんなむずかしい病気、ぼくには治せない。


 ぼくに出来るのは、薬草を使った民間療法みんかんちりょうくらいだ。


 どんなにすぐれたお医者さんだって、治せない病気があるし、救えない命がある。


 分かっている、分かっているけど!


 目の前に、病気で苦しんでいる猫がいるのに、何も出来ないなんてっ!


 ぼくはずっと、心の中で、「何も出来なくて、ごめんなさい」と、あやまり続けるしかなかった。

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