第121話 ヤブガラシ

 ぼくとヒョウ兄貴あにきは、縄張なわばりから、少しはなれた川へ移動いどうした。 


「ミャ」


 ここなら、縄張なわばりの猫達に、見られることはありません。


 大きな岩がゴロゴロ転がっているから、猫達が来ても、すぐかくれられますよ。


「すまんにゃん……こんなカッコワルイところ、お医者さんのシロちゃんくらいにしか、見せられないにゃん……」


 最初に会った頃の、堂々どうどうとした態度たいどは、どこへやら。


 今は、耳もしっぽも、ションボリとれてしまっている。 

 

 声にも、ぼそぼそと、ちからがない。


 さっきまで元気そうだったのは、やっぱり、やせ我慢がまんをしていたんだな。


「ミャ」


 カッコワルくなんてないですよ。


 ケガや病気をしたら、誰だってつらいのは当たり前です。


 すみませんが、まずは傷を洗い流して、冷やさなければなりません。


 水は苦手だと思いますけど、川に入ってもらえますか?  


「分かったにゃん……」


 ヒョウ兄貴あにきは、何もかもあきらめ切ったような顔で、トボトボと川へ入っていった。


「ミャ」


 ヒョウ兄貴あにきが、傷を洗い流している間に、ぼくはお薬を作りますね。


 ぼくはそう言って、河原かわらの近くにある草むらで、薬草を探す。


 いつでもどこでも、最適さいてきな薬草がえているとは限らないから、薬草探しは大変だ。


 ヨモギとアロエは、繁殖力はんしょくりょくが強い雑草ざっそうだから、わりとどこでも見つかりやすい。 


 このふたつがあれば、だいたいなんとかなるって気がする。


 あとは、虫刺むしさされにく、薬草があれば良いんだけど……。


 頼むぞ、『走査そうさ


対象たいしょう:ヤブガラシ属ヤブガラシ』


薬効やっこう解毒げどく鎮痛ちんつう消炎しょうえん虫刺むしさされ』


 さすがは、『走査そうさ


 この状況に、一番最適さいてきな薬草を、見つけ出してくれた。


走査そうさ』は、なんでも教えてくれる先生みたいな存在そんざいだな。


 さっそく、ヤブガラシをると、つるやくきの切り口から出た汁で、体が黒く汚れた。


 うわぁ……これは、ぼくもあとで、水浴びしなきゃいけないな。


 ひとまず、川の水で、手だけ洗って、ヨモギをつぶして抗菌薬こうきんやくを作る。


 アロエとヤブガラシは、葉やくきを折った時に出てくる汁を混ぜ合わせて、虫刺むしさされ用の抗炎症薬こうえんしょうやくを作った。


 よし、ひと通り、薬が出来たぞ。


「ミャ」


 ヒョウ兄貴あにき、お薬が出来ましたので、川から上がって良いですよ。


「すまんにゃん……」


 ヒョウ兄貴あにきは、やっぱり水が苦手だったらしく、げっそりしていた。


 猫って、水にれると、別の生き物みたいになるよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る