第120話 やせ我慢はダメだよ

 こっそりと、ヒョウ兄貴あにきに向かって、『走査そうさ』してみる。


症状しょうじょう右前腕骨みぎぜんわんこつ不全骨折ふぜんこっせつ左下腿骨ひだりかたいこつ不全骨折ふぜんこっせつ尾椎びつい不全骨折ふぜんこっせつ打撲だぼく内出血ないしゅっけつ擦過傷さっかしょう刺創しそう細菌感染症さいきんかんせんしょう虫刺症ちゅうししょう


右前腕骨みぎうでのほねに不全骨折ヒビが入っている左下腿骨ひだりすねのほねに不全骨折ヒビが入っている尾椎しっぽのほね不全骨折にヒビが入っている処置しょち:なし。安静あんせいののち、3週間ほどで自然治癒かってになおる


打撲だぼく内出血ないしゅっけつ処置しょち冷却れいきゃく圧迫あっぱくし、心臓より高い位置で固定』


擦過傷すりきず刺創さしきず、および、細菌感染症さいきんかんせんしょう処置しょち:傷を流水りゅうすい洗浄せんじょう後、消毒しょうどくし、創傷被覆材ばんそうこう保護ほご抗菌薬こうきんやく投与とうよ


虫刺症むしさされ処置しょち:傷を流水りゅうすい洗浄せんじょう後、ステロイド外用剤がいようざいの塗布をぬる』 


 うわ、なんか、スゴイ!


 体中からだじゅうケガだらけで、歴戦れきせんの戦士(多くの戦いを経験けいけんしたプロ)って感じだっ!


 猫は体がふわふわの毛におおわれているから、どこをケガしているのか、見ただけじゃ分からないんだよね。


 ヒョウ兄貴あにきは、なんでもないような顔をしているけど、痛くないのかな?


 いや、たぶん、ヒョウ兄貴あにきは、やせ我慢がまん(つらいと思っているのに、我慢がまんして、平気なふりをしている)するタイプだと思う。


 カッコイイ強いリーダーにあこがれているみたいだから、きっと、自分の弱いところを誰にも見せたくないんだ。


 でも、歴戦れきせんの戦士だって、ケガが原因で病気になっちゃう人も、たくさんいたからね。


 それに、虫刺むしさされはマズい。


 何の虫にされたかによるけど、毒虫だったら危ない。


 よし、ヒョウ兄貴あにき説得せっとくして、治療ちりょうを受けてもらおう。


「ミャ」


 ヒョウ兄貴あにき、ぼくにケガを治療ちりょうさせてもらえませんか?


「え? さっき、めときゃ治るって、言ったにゃん」


「ミャ」


 めても治らない、ケガや病気がたくさんあるんですよ。


 それに、虫にされたでしょう?


 そのまま放っておいたら、もっと痛くなっちゃいますよ。


「にゃっ? にゃんで、オレが、虫にされたことを知っているにゃんっ?」


 虫刺むしさされを言い当てられて、ヒョウ兄貴あにきは、とてもビックリした。


 やっぱり、やせ我慢がまんをして、誰にも言わずにかくしていたな?


「ミャ」


 ぼくは、お医者さんなので、れば分かりますよ。


「そうなのにゃん? お医者さんは、スゴイにゃん。分かったにゃん、治療ちりょうを受けるにゃん。でも、くれぐれも、縄張なわばりの猫達には、ないしょにして欲しいにゃん。みんなには、オレのカッコ悪いところを、知られたくないにゃん……」


 ションボリとしたヒョウ兄貴あにきは、ぼくの耳元で、こそこそと小さな声でそう言った。

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