第112話 海に別れを告げて

 海をながめて、波音を聞きながら、海岸線かいがんせんに沿って歩いて行く。


 空と海と砂浜以外、ビックリするほど、なんにもないな。


 ここが小さな島だとしたら、砂浜をずっと歩いて行けば、島を一周出来るかもしれない。

 

 ここが大陸だったとしたら、きっと、一生かかっても、歩ききれない。


 もし、この砂浜がどこまでもどこまでも、果てしなく続いていたら、イチモツの集落しゅうらくへ帰れない。


 やっぱり、集落しゅうらくへ帰れないのは、イヤだなぁ。


 いつか必ず、イチモツの集落しゅうらくへ帰りたい。


 そんなことを考えながら、しばらく歩いていると。

 

 見上げるほど大きな岸壁がんぺきが、行く先に立ちふさがっていた。


 大きくて高いがけが、海へ向かって突き出している。


 がけから陸地りくちの方へ目を向けると、山につながっていた。


 この先に行くのは、無理そうだ。


 どうやら、ここが終着点しゅうちゃくてんらしい。


 ぼくの旅は、意外と、あっさり終わっちゃったな。


 高い岸壁がんぺきを見上げて、お父さんとお母さんが、聞いてくる。


「シロちゃん、行き止まりみたいニャー」


「シロちゃん、どうするニャ?」


「ミャ」


 そのまま引き返すのは、つまらないから、今度は反対回りで帰ろう。


 ふたりとも「分かった」と、笑顔でうなづいてくれた。


 さようなら、海。


 次、会えるのは、いつになるかな。


 ぼく達は、海を背にして、砂浜から草原へ向かって歩いて行く。


 すると、草原に、茶トラがらに黒が混ざった、まだら模様もようのべっこう猫が、香箱こうばこ座りをして、目を閉じていた。


 近づいて行くと、べっこう猫が目を開けた。


「おや~? どちらさまニィ~?」


「ミャ」


 あ、お休み中のところ、起こしちゃってすみません。


 初めまして、ぼく達は、あの山の向こうからやって来ました。


「へぇ~? あの山を越えてきたニィ~? スゴいニィ~」


 べっこう猫は、山を見上げて、目を大きく見開いて驚いた。


 とても大きくてけわしい岩山だから、登る猫はいないんだろう。


「ミャ?」


 あなたは、この辺りの縄張なわばりにんでいる猫ですか?


「そうニィ~」


「ミャ?」


 もし良かったら、あなたの縄張なわばりまで、連れて行ってもらえませんか?


「良いニィ~。ついて来るニィ~」


 そう言って、起き上がったべっこう猫は、ヒョコヒョコと片足を上げて、歩いている。


「ミャ?」


 足をケガしているんですか?


「これニィ~? これは、さっき、ちょっと引っかけちゃったんだニィ~」


「ミャ」


 信じてもらえないと思いますが、ぼくはお医者さんです。


 もしよければ、傷をせてもらって、良いですか?


「お医者さんニィ~ッ? だったら、すぐ、うちの縄張なわばりへ来てニィ~ッ!」


 ぼくが「お医者さん」と言った直後、べっこう猫はめちゃくちゃ驚き、大急ぎでどこかへ向かって走り出す。


 べっこう猫の縄張なわばりで、何か大変なことが起きているのかもしれない。


 ぼく達は、べっこう猫の後を追いかけた。

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