第108話 山の向こう側へ

 それから数日間、ぼく達家族は、ゆっくりと寝て過ごした。


 思い返せば、ハチ先生がいた縄張なわばりを出てから、この集落しゅうらくに着くまで、ずいぶん時間がかかったような気がする。


 トマークトゥスのれにおそわれて、お父さんとお母さんとはぐれちゃったのが、一番大きかった。


 ひとりぼっちになって、あらためて、お父さんとお母さんのがたみを知った。


 さいわいなことに、お父さんとお母さんに無事、再会出来た。


 この集落しゅうらくけた時は、めちゃくちゃうれしかったな。


 次の集落しゅうらく辿たどけるのは、いつになるか分からない。


 休める時に、しっかり休んでおかないと。




 たっぷり眠って、疲れもえたところで、旅立ちの時をむかえた。


 集落しゅうらくの猫達全員が、お見送りに来てくれた。


「仔猫のお医者さん、ありがとニャ~ン」


「教えてもらったお薬は、ずっとかたいでいくニャゥ」


「どうか、お元気でナ~」


 旅立つ頃には、だいぶ元気を取り戻したキジブチが、笑顔で話しかけてくる。


「何から何まで、本当にありがとニャゴ。シロチャさんは、手遅ておくれだったけど……みんなは、助かって良かったニャゴ。また、おいでニャゴ。体調は大丈夫ニャゴ? 忘れ物はないニャゴ?」


 キジブチは、ぼくの頭をで撫でしながら、あれこれ聞いてくる。


 どうやら、世話好きでおしゃべりな猫に戻ったようだ。


 ぼくは、キジブチに向かって、ニッコリと笑い返す。

 

「ミャ」


 キジブチさん、お元気になられたようで、良かったです。


 キジブチさんも、皆さんも、どうかお元気で。


「アンタは、まだちっちゃいんだから、お父さんとお母さんの言うことを良く聞くニャゴ。お父さんとお母さん、どうかこの子を守ってあげて下さいニャゴ」


「もちろん、シロちゃんは、大事なうちの子ですニャー。絶対に守り抜くと、お約束しますニャー」


「可愛いシロちゃんを守ることは、親として当然ですニャ」


 お父さんがぼくを抱き上げて、のどをゴロゴロ鳴らしながら、顔をスリスリした。


 お母さんも、のどを鳴らして、スリスリしてくる。


 くすぐったくて、嬉しくて、ぼくものどを鳴らした。


 そんなぼく達を見て、キジブチも安心したように笑う。


「お父さんとお母さんに愛されて、とっても幸せそうニャゴ。これからもずっと、幸せでいられるように、心から祈っているニャゴ」


 こうしてぼく達は、キジブチがいる集落しゅうらくを旅立った。




 集落しゅうらくを出た後、またしばらくは、気ままな家族旅だった。


 川に沿ってたにを抜け、ついに、山の向こう側へ。


 山の向こう側にあったのは、広い広い大草原だいそうげん


 その先に、お日様ひさまの光にらされて、水面すいめんがキラキラと光っている、大きな海があった。


「ミャーッ!」


 海だーっ!


 ぼくは大喜びで、海へ向かってけ出した。 

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