第103話 涙をこえて

「仔猫のお医者さん、ありがとニャゴ……」


 キジブチは、泣き疲れて、ぐったりとした顔で言った。


 キジブチは、自分が流した涙で、体の前面がびしょれになっている。


 初めて会った時の陽気ようきさは、見る影もない。


 あれほど泣き叫ぶってことは、キジブチにとって、シロチャはとても大事な猫だったに違いない。


 親か子か、それともつがい(夫婦)か。


 すっかり気落ちしてしまったキジブチに、かける言葉が見つからない。


 さっき会ったばかりで、事情じじょうも知らない仔猫のぼくが、なぐさめるってのも、おかしな話だ。


 今は、そっとしておいてあげよう。


「シロちゃん、大丈夫かニャー?」


「シロちゃん、びしょれニャ。毛づくろいしてあげるニャ」


「ミャ……」


 お父さんとお母さんが、落ち込んだぼくを心配して、涙でれた毛を、丁寧ていねいに毛づくろいしてくれた。


 お父さんとお母さんの優しさが、深い悲しみでしずんでいた心にみる。


 どうやらぼくも、生まれて初めて見た死に、相当ショックを受けていたようだ。


 ぼくもお返しに、お母さんの胸で流した涙のあとを、毛づくろいした。


 毛づくろいをしてもらったら、心が安らいで、落ち着きを取り戻した。


 キジブチにも、涙でれた毛を、毛づくろいしてくれる猫がいたらいいのに。


 

 毛づくろいのおかげで、気力を取り戻したぼくは、集落しゅうらくの猫達に話を聞くことにした。


「ミャ?」


 すみません、この辺りに、ケガや病気で苦しんでいる猫はいませんか? 


「ケガや病気ニャゥ? そうだニャゥ……最近、体がかゆくてかゆくて、仕方がないニャゥ」


 そう言って、クロトラ猫は、かゆそうに体をいたり、頭を振ったりしている。


 良く見れば、クロトラの体の上で、小さな虫がピョンピョンねている。 


 これは、「走査そうさ」しなくても分かる。


 この猫の体には、ノミがいるな。


 でも、処置しょちが分からないから、とりあえず、「走査そうさ


症状しょうじょう:ノミ皮膚炎ひふえん疥癬かいせん(ダニによる皮膚炎ひふえん)、細菌感染症さいきんかんせんしょう


処置しょち:ノミ駆除薬くじょやく、ダニ駆除薬くじょやく抗炎症薬こうえんしょうやく抗菌薬こうきんやく投与とうよ


 やっぱり、思った通り、ノミとダニがいた。


 この感じだと、この猫だけじゃなく、他の猫達もノミとダニがいそうだな。


 あとで、ノミとダニがいる猫達も全員集めて、処置しょちしよう。


 抗菌薬こうきんやくは、ヨモギがあるし。


 抗炎症薬こうえんしょうやくは、アロエがあるから良いとして。


 問題は、ノミとダニの駆除薬くじょやくか。


 この辺りに、ノミとダニの駆除くじょく薬草はあるかな?

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