第101話 お医者さんがいれば

 キジブチの話が、ひと区切くぎりついたところで、いつもの質問をしてみる。


「ミャ?」


 ここに、お医者さんはいますか?


「仔猫ちゃんは、ケガをしているニャゴ? でも、残念だけど、お医者さんはいないニャゴ。そうそう、ケガと言えば、この間、大きなケガをした猫が帰ってきたニャゴ。こんな時、お医者さんがいてくれれば、良かったニャゴ」


「ミャッ?」


 ケガをした猫が、いるんですかっ?


 その猫のところへ、ぼくを連れて行って下さい!


「え? えぇ……まぁ、連れて行くのは、かまわないニャゴ。でも、行ってどうするニャゴ?」

 

「ミャ」


 ぼくは、お医者さんです。


 ケガや病気で苦しんでいる猫がいるなら、ぼくが助けます。


「あらあらまぁまぁ、仔猫ちゃんが、お医者さんニャゴ? 分かったニャゴ。ついて来てニャゴ」


 キジブチは、吹き出すように笑い出し、ぼくに手招きしながら歩き始めた。


「仔猫のお医者さん、可愛いニャゴ」


 おおウケしているから、全然信じていないな。


 仔猫あつかいされても、お医者さんだと信じてもらえなくても、別に良い。


 なんと言われようとも、ぼくはただ、苦しんでいる猫をすくうだけだ。


 しばらく歩くと、猫達の巣穴すあなへ案内された。


 地面に、穴がたくさん開いている。


 キジブチが、ひとつの巣穴すあなに頭を突っ込んで、中にいる猫へ向かって、声をかける。


「シロチャさ~ん、仔猫のお医者さんを連れてきたニャゴ~」


 しかし、返事はない。


 きっと、ケガを治す為に、安静あんせいにして眠っているのだろう。


「あら~、ごめんなさいニャゴ。シロチャさん、今は寝ているみたいニャゴ」


「ミャ」


 キジブチさん、ちょっと、後ろに下がってもらって良いですか?


 シロチャさんの容態ようたいますので。


「はいはい、仔猫のお医者さん、お願いしますニャゴ」


 キジブチは、子供のおままごとに付き合う大人みたいな半笑はんわらいの顔で、後ろへ下がった。


 巣穴すあなのぞき込むと、強い血の臭いがする。


 巣穴すあなの中では、傷だらけのシロチャ猫が横たわっていて、静かに目を閉じていた。


 可哀想かわいそうに……今、助けるからね。


 シロチャ猫へ向かって、手をかざして、『走査そうさ


対象たいしょう:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』


症状しょうじょう:動物咬傷こうしょうまれた傷)および、掻傷かききずによる出血性しゅっけつせいショック。多臓器不全たぞうきふぜんにより、死亡』


処置しょち:なし』

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