第94話 会えない理由

 寒い。


 おなかが空いた。 

  

 寒さと空腹くうふくで、目が覚めた。


 気が付くと、せまくて薄暗うすぐらいところにいた。


 あれ? どこだここ?


 お父さんとお母さんは?


 なんか、鳥くさいんだけど。


 起きたばかりで、ぼんやりとしていて、頭がはたらかない。


 とりあえず、毛づくろいでもしようかな。


 毛づくろいをしているうちに、だんだんと頭がハッキリしてきて、思い出した。


 そうだ! トマークトゥス(オオカミ)におそわれたんだっ!


 どうにか逃げ切れたけど、お父さんとお母さんとはぐれてしまった。


 それで、雨がってきたから、鳥の巣穴すあな雨宿あまやどりしているところだった。


 たっぷり眠ったおかげで、疲れは取れていた。 


 穴から顔をのぞかせると、外はすっかり暗くなり、夜になっていた。


 どんよりとした、灰色の雨雲あまぐもが空をおおい、雨がり続けている。


 ここから少しはなれたところにある川が、ゴウゴウとはげしい水音を立てているのが、聞こえる。   

 

 大量の水があふれているかもしれないから、川へは近付けないな。


 もしかしたら、お父さんとお母さんは、川の向こう側へ渡ったのかもしれない。


 雨がる前の川は、水も浅く、流れもおだやかで、歩いて渡れた。


 大雨の後で、川の流れが激しくなったから、こちら側へ戻って来られなくなったのだろうか?


 いや、逆か?


 ぼくが、逃げ回っているうちに、川を渡って来ちゃったのかも。


 逃げるのに必死だったから、自分でも気付かないうちに、川を渡った可能性かのうせいは、充分じゅうぶん考えられるんだよな。


 もし、この考えが正しいとすれば、川の流れが元に戻るまで、お父さんとお母さんには会えない。


 今頃、お父さんとお母さんも、ぼくを探し回っているだろう。


 ふたりとも過保護かほごだし、愛されている自覚じかくもある。


 ふたりには、いつも心配をかけてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 ぼくが、もう少し冷静れいせいだったら、一緒に逃げられたのかもしれないけど。


 今更いまさら、いくらやんでも仕方がない。


 これからは、ぼくひとりで生きていかなければならない。


 生きていれば、いつかきっとまた会えるはずだ。


 生きる為には、まずは食べなきゃ。


 食べられそうなものを探す為に、鳥の巣穴すあなから出た。


 大きな草食動物は無理でも、小さな虫やネズミくらいなら、ぼくでも狩れるはず。


 今は、とてもおなかが空いているから、食べられれば、なんでもいいや。

 

 ただし、アプソロブラッティナ以外で。



 ―――――――――――――


Aphthoroblattinaアプソロブラッティナとは?】


 日本人なら、たぶん、みんな苦手な頭文字イニシャルGの祖先そせん


 全長9cm


 名前だけは、ムダにカッコイイ。

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