第93話 迷子の仔猫

 ざっと見渡した感じ、動物の姿は1匹も見られない。


 雨がっているから、他の動物もみんな、自分のへ帰ったのかな?


 トマークトゥス(オオカミ)がいたから、他の動物も逃げちゃったのかもしれない。


 お父さんとお母さんや猫達は、どこまで逃げちゃったんだろう。


 みんなも今頃、どこかで息をひそめて、かくれているんだ。

 

 トマークトゥス達が、完全に立ち去ったかどうかは、まだ分からない。


 もしかしたら、まだあきらめ切れずに、ぼく達をねらっているかもしれない。 


 こうやって、ぼくがひとりで歩き回っているのも、危険だよな。


 でも、見通しの良い場所にいれば、天敵てんてきおそってきたとしても、すぐ気付ける。


 同時に、天敵てんてきからも、ぼくの姿が丸見えだけどね。


 お父さんとお母さんを探して、当てもなくウロウロと歩き回る。


 だけど、いくら探しても、どこへ行っても誰もいない。


 ずっと雨に打たれていたら、モノスゴくみじめな気持ちになってきた。


 びしょれの体が、どんどん冷えていく。


 体もだんだん重くなってきて、足もフラフラする。


 目もかすみ、頭もぼんやりしてきた。


 お父さん、お母さん、どこにいるの?


 どこに行けば、会えるの?


 ぼくは、ここにいるよ。       


 とっても、おなかが空いたな。


 猫草をたくさん食べたら、おなかいっぱいになるかな?


 疲れたな、眠いな。


 でも、ここで寝ちゃダメだよな。


 せめて、安全な場所を探さないと。


 安全な場所って、どこ?


 寒いよ、眠いよ。


 早く巣穴すあなになる場所を探さないと、寒くて死んじゃう。


 安全な場所はないかと探していると、目の前にある大きな木に、小さな穴が開いていた。


 あれはたぶん、鳥がった巣穴すあなだ。


 においをいでみると、鳥くさかった。


 耳をませてみても、雛鳥ひなどりの鳴き声は聞こえない。


 確か、鳥の巣立すだちは、春~夏だったはず。


 巣立すだった後、他の鳥がみついていなければ、良いんだけど。


 鳥の巣穴すあななので、入り口は小さいけど、仔猫のぼくなら入れそうだ。


 残りわずかな体力で、どうにか木に登り、巣穴すあなのぞき込む。  


 よしっ、巣立ったばかりなのか、誰もいないぞ!


 中には、枯草かれくされ枝で組まれた、鳥の巣があった。


 さっそく、鳥の巣に入って、丸くなる。


 巣穴すあなの中は、ほんのりとあたたかかった。


 ここなら、雨風あめかぜが入ってこないし、危険生物におそわれる心配もない。


 雨がむまで、ここでゆっくりと休もう。

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