第89話 傷だらけの猫達

 傷だらけで倒れている5匹の猫に向かって、『走査そうさ


症状しょうじょう:動物咬傷こうしょうまれた傷)および、掻傷かききずによる、細菌感染症さいきんかんせんしょう


処置しょち:傷口を流水で洗浄せんじょう後、消毒。抗菌薬こうきんやくと、破傷風はしょうふうトキソイドを投与とうよ


破傷風はしょうふうトキソイド」ってのが、何か分からないけど。


 とにかく早く、傷口を洗わないと。


「ミャ」


「川で傷口を洗います」と言ったら、思った通り、みんなイヤがった。


「洗わないと、病気になって、今よりもっとたくさん痛くなりますよ」と言えば、みんな渋々しぶしぶとだけど、言うことを聞いてくれた。


 お父さんとお母さんにたのんで、ケガで動けない猫達を川へ運んでもらった。


 軽傷けいしょうで自分の足で歩ける猫達は、イヤイヤながらも、自分で川へ入ってくれた。


 流水で傷口を洗い終わったら、猫達を川から引き上げる。


 水浴び疲れで、ぐったりと河原かわらで寝そべる猫達に、ヨモギの薬をっていく。


 ヨモギには、止血しけつ抗菌こうきん作用があるから、傷薬きずぐすり最適さいてき


 浄血じょうけつ(血を綺麗きれいにする)や増血ぞうけつ(血を増やす)作用もあるから、ヨモギの汁をひとくちずつ飲ませる。


 猫も、ちょっとだけなら、ヨモギを食べても大丈夫。


 猫草ねこくさみたいに、ヨモギをこのんで食べる猫もいるらしい。


 でも、猫によっては、アレルギー反応を起こしたり、ゴロゴロピーちゃんになったりおなかをこわしたりするから、無理に食べさせちゃダメだよ。


 あと、「破傷風はしょうふうトキソイド」なんて薬はないから、これは無視むしだな。


 よし、これで、やれることはやったはず。


 処置しょちが終わったところで、猫達に話しかけてみる。


「ミャ?」


 皆さん、こんなに傷だらけになって、何があったんですか?


「狩りをしていたら、トマークトゥスにおそわれたニャ~……」


 5匹の中で、ケガが軽かったクロブチ猫が、ションボリ顏でこたえてくれた。


 トマークトゥスって、どっかで聞いたような……。


 あ、思い出した!


 トマークトゥスに追われて、毒虫だらけの集落しゅうらくへ迷い込んでしまった猫達がいたっけ。


 集落しゅうらくの猫達は、安全な場所へお引っ越しさせたけど。


 あの猫達は、今頃、どうしているかな?


 みんな、元気にらしていると良いけど。


 ぼくは今のところ、トマークトゥスってのを、見たことがない。


 猫の天敵てんてきらしいから、会いたくないけど。




 ――――――――――――――――


破傷風はしょうふうとは?】


 傷口から、破傷風菌はしょうふうきんが入ることで、感染かんせんする。


 高い熱が出たり、体がだるくなったり、全身ぜんしん麻痺まひしたりする、とっても怖い病気。



破傷風はしょうふうtoxoidトキソイドとは?】


 破傷風菌はしょうふうきんの毒を、無毒化むどくかしたもの。


 破傷風はしょうふうトキソイドを注射すると、破傷風菌はしょうふうきん免疫めんえき防御能力ぼうぎょのうりょく)が出来る。 


 免疫細胞めんえきさいぼう防御能力ディフェンススキルおぼえた白血球はっけっきゅう)が、破傷風菌はしょうふうきんをやっつけてくれるので、病気が治る。



Tomarctusトマークトゥスとは?】


 今から2300万年~1600万年前に生息せいそくしていたといわれている、オオカミの祖先。


 体長約150cm、体高約90cm、体重約50kg

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