第88話 「ありがとう」

 それからしばらく、お父さんとお母さんと3匹だけで旅を続けた。


 ハチ先生の縄張なわばりを旅立ってから、次の縄張なわばりには、なかなか辿たどけない。


 山を見上げれば、ヤギやリス、鳥なんかは見かけるのに、猫は1匹もいない。


 この辺りに、猫はいないようだ。


 お父さんとお母さんがいるから、「可愛い猫をでたい!」っていう欲求よっきゅうは、たされているけど。


 早く、猫がいっぱいいる縄張なわばりや集落しゅうらくを見つけて、のんびりと安眠したいなぁ。


 ふいに、お父さんとお母さんに付いて来てもらって良かったなと、思う。


 ぼくは仔猫だから、何かと不便ふべんなんだよね。


 ひとりだと必ず、「お父さんとお母さんは?」って、聞かれるし。


 どこへ行っても、子供あつかいされるし。


 体が小さくて弱いから、天敵てんてきねらわれやすい。


 お父さんは、動物に詳しくて、狩りも上手。


 お母さんは美猫びじんさんだし、ぼくをいっぱい愛してくれる。


 ふたりがいてくれるおかげで、ぼくは安心して旅を続けられるんだ。


 ぼくはふたりを見上げて、にっこりと笑って言う。


「ミャ!」


 お父さん、お母さん、いつもありがとう! 大好きっ!


「私達も、シロちゃんが大好きニャ!」


 お父さんとお母さんが、うれしそうに笑って、ぼくをギュッと抱きめてくれた。


 抱きめられると、あったかくて気持ちが良くて、スゴく安心して幸せを感じる。


「ありがとう」は、言える時に言っておかないと、あとになって、言わなかったことを後悔こうかいする。


「ありがとう」って、言った方も言われた方もうれしくなるよね。


 だから言える時に、いつでも何度でも「ありがとう」と言おう。



 それから、数日後。 


 苦しんでいる猫達の鳴き声が、聞こえてきた。


 周囲しゅういただようほど、強い血のにおいもしている。


「ミャ!」


 大変だ! この近くに、傷付いている猫達がたくさんいるっ!


 ぼくは、お父さんとお母さんとうなづい、猫を探し始める。


 それからすぐ、傷付いて地面に倒れている、数匹の猫達を見つけた。


 ぼくは、猫達にる。


「ミャッ?」


 大丈夫ですかっ?


「うぅ……痛いニャ~、助けてニャ~……」


 猫達は、「痛い痛い」と、ニャーニャー鳴いて、助けを求めている。


 見た感じ、危険生物におそわれたみたいだな。


 何におそわれたかなんて、そんなのはあとで聞けば良い。


 今は少しでも早く、猫達を助けないと!

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