第86話 あの坂をのぼれば

「ミャ?」


 ハチ先生は、山に登ったことはありますか?


「登ったことは、あるニャフ。でも、途中で疲れて、降りてきちゃったニャフ」


 山の向こうには、何があるんでしょうか?


「さぁ? 行ったことがないから、知らないニャフ。もしかしたら、知っている猫がいるかもしれないから、他の猫に聞いてみると良いニャフ」


 茶ブチさんは、知らないですか?


「ごめんニィ~、ボクもこの縄張なわばりから出たことがないから、知らないニィ~」


 ハチ先生も茶ブチさんも、聞けばなんでも答えてくれた。


 でも、ふたりとも、知らないことの方が多かった。


縄張なわばりから出ないから、外のことはあまり知らないそうだ。


 猫は、環境の変化を嫌う動物だから、基本的に縄張なわばりの中で生活する。


 何か事情がない限り、産まれて死ぬまで同じ縄張なわばりに居付いつくだそうだ。


 イチモツの集落の猫達も、「狩り以外では、集落の外へ出ない」と、言っていたな。


 例外は、旅好きだったイチモツの集落のミケさんと、ぼくくらいだろうか。


 話が途切とぎれたところで、ケガをした患者さんが来たので、邪魔じゃましないように、その場を離れた。


 他の猫達に話を聞いてみたけど、山の頂上まで登った猫は1匹もいなかった。


 山の上に何があるのか、山の向こうに何があるのか、誰も知らない。


 もしかしたら、あの山を登れば、海が見えるかもしれない。


 ますます、山の向こうへ行ってみたくなった。


 だけど、山には登らず、山のふもとに沿って歩いていく予定だから、長い旅になるだろうけど。


 いつかきっと、山の向こうへ行けるはずだ。


 この縄張なわばりには、ハチ先生と茶ブチさんがいるから、ぼくに出来ることは何もない。


 ぼく達家族は、次の旅へ出る為に、たっぷりと眠って、体力を回復させることにした。

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