第85話 受け継がれる医師

 今はちょうど、患者さんがいないみたいなので、ハチ先生とお話しすることにした。


「ミャ」


 この縄張なわばりには、ハチ先生以外のお医者さんはいますか?


「お医者さんではないけど、お手伝いをしてくれている、茶ブチくんがいるニャフ。ほら、茶ブチくん、ご挨拶あいさつしてニャフ」


「どうも~、茶ブチニィ~。いつも、ハチ先生のお手伝いをしているニィ~」


 白毛に茶色い模様もようのある茶ブチネコが、にこやかに挨拶あいさつをしてきた。 


「ミャ」


 初めまして、茶ブチさん。


 茶ブチさんは、ハチ先生のお手伝いをされているのですね。


「ハチ先生は、患者さんの手当で忙しいから、ボクが代わりに、ヨモギをつぶして薬を作っているんだニィ~」 


 茶ブチさんは、手を休めずに、石でヨモギをトントンつぶしながら答えた。


 ヨモギをつぶしているから、茶ブチさんの両手はヨモギ色に染まって、緑の靴下猫になってしまっている。


 ハチ先生が、ニコニコ笑いながらうなづく。


「茶ブチくんが、薬を作ってくれるから、いつも助かっているニャフ」


「いえいえ~、どういたしましてニィ~」


 ヨモギのペーストを手作りするって、地味に大変なんだよね。


 ヨモギは繊維質せんいしつが多いから、つぶすのに、結構時間がかかるんだ。


 ミキサーとかフードプロセッサーとかがあれば、簡単にペースト状に出来るんだろうけど。


 この世界では、そんなもんないし、石で叩いてつぶすしかない。


「ミャ」


 薬の作り方や使い方は、誰から教わったのですか?


「ワタシに、薬の使い方を教えてくれたお医者さんがいたニャフ。でも、もうずいぶん前に、亡くなってしまったニャフ」


 ハチ先生は、悲しそうな顔で答えた。


 そういえば、茶トラ先生も、先代のお医者さんに教えてもらったと言っていた。


 ぼくも、茶トラ先生の助手になって、お医者さんの知識を学んだ。


 お医者さんがいる集落では、こうして、次の世代せだいのお医者さんを育てているんだ。


 今はお手伝いの茶ブチさんも、そのうち、お医者さんになるのだろう。


 人間だって、医学を勉強しなければ、お医者さんにはなれない。


 たぶん、お医者さんがいない集落は、最初からお医者さんがいなかったんだ。


 たくさん薬草がえていたとしても、見分け方や使い方が分からなければ、ただの雑草ざっそうだもんな。


 そうだ! 今までおとずれた集落でもやってきたように、ぼくが薬草の使い方を教えて、次のお医者さんを育てていけばいいんじゃないかっ!

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