第84話 猫の自然治癒力

 夜になる前に、巣穴すあなになりそうな、小さな洞穴ほらあなを見つけた。

 

 洞穴ほらあなってのは、がけ岩壁いわかべに、自然に出来た穴のこと。


 夜になると、活発かっぱつになる天敵てんてきが多い。


 仔猫のぼくは、ねらわれたら、あっという間に狩られてしまう。


 ケガや病気で弱っている猫も、ねらわれやすい。


 ヤツらは、血の臭いをぎ付けて、おそってくる。


 患者さんはまだ動けないので、ぼくと患者さんは洞穴ほらあなに隠れて、お留守番るすばん


 患者さんに、追加のアロエをっている間に、お父さんとお母さんが狩りへ行ってくれた。


 ふたりが狩ってきたのは、パラヒップス(小さなウマ)だった。


「シロちゃん、パラヒップスをってきたニャー」


「みんなで、食べましょうニャ」


「ありがとニャン、いただきますニャン」


「ミャ」


 ぼく達4匹は、パラヒップスを美味しく食べた後、洞穴ほらあなの中で身をせ合って眠った。



 翌日、患者さんは嬉しそうにニコニコ笑っていた。


「あんまり痛くなくなったニャン」

 

 確認の為、捻挫ねんざした場所にさわってみると、熱とれが引いていた。


 猫の自然治癒力しぜんちゆりょくって、スゴい。

 

 猫は、軽い捻挫ねんざくらいなら3日で治るって、本当なんだな。


 それとも、アロエが効いたのかな?


 なんにしても、元気になってくれて良かった。


 猫が苦しんでいる姿を見ると、とてもせつない気持ちになるから。


「助けてくれたお礼に、ボクの縄張なわばりへ招待しょうたいするニャン」


 患者さんは、まだ歩き方がぎこちないけど、ゆっくりと歩いて、自分の縄張なわばりまで連れて行ってくれた。


 縄張なわばりでは、たくさんの猫達がのんびりとくつろいでいた。


 1匹の猫がこちらに気付いて、患者さんに声をかけてくる。


「おかえり。ずいぶんと、帰って来るのが遅かったけど、どうしたニャオ?」


「パサンを狩ろうとしたら、崖から落ちてケガしちゃったニャン……」


 しょんぼりする患者さんを、縄張なわばりの猫が優しくなだめる。


「ケガしても、帰って来てくれて良かったニャオ。ところで、後ろにいるのは誰ニャオ?」


「ボクが死にそうだったところを、助けてくれたお医者さん達ニャン」


 患者さんがぼく達を紹介してくれると、縄張なわばりの猫はニッコリと笑って、お礼を言ってくる。


「お医者さんでしたかニャオ。うちの子を助けてくれて、ありがとうございましたニャオ。良かったら、ゆっくりしていって下さいニャオ」


 そう言って、ぼく達を縄張なわばりへむかえ入れてくれた。

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