第81話 洗浄と冷却

 傷だらけで苦しんでいる猫に、残酷ざんこくなお知らせをしなければならない。


「ミャ」


 すみません、これからあなたを川へ入れます。


「ニャ、ニャンだってっ? 水はイヤニャン! 怖いニャンッ!」


 やっぱり、この猫も水が苦手だった。


 逆に水浴びが好きな猫の方が、珍しいからな。


 患者さんは水を恐れて、ジタバタと逃げようとしたが、暴れたせいで痛みが増してしまったようだ。


「ニャーニャー」と、痛がって泣いている。


「ミャ」


 水は怖いと思いますが、どうか我慢がまんして下さい。 


 傷を水で洗い流して冷やさないと、もっと痛くなりますよ。


「うぅ……分かったニャン……水はイヤだけど、痛くなるのはもっとイヤニャン……」


 丁寧ていねい説得せっとくしたら、渋々しぶしぶながら、受け入れてもらえた。


 お父さんとお母さんに頼んで、患者さんを川まで運んでもらう。


「ミャ」


 患者さんは傷だらけだから、そっと運んでね。


「分かっているニャー」


「私達も水は怖いけど、頑張がんばるニャ」


 お父さんとお母さんも水が苦手なので、少しでもれないように気を付けながら、患者さんを川へ運んでくれた。


 患者さんは水に入れられると、注射ちゅうしゃされる子供みたいに、目をギュッと閉じて、体を固くしている。  


 川の深さは15cmくらいで、おぼれるような深さじゃない。


 ぼくも川へ入り、患者さんの体に水をバシャバシャかけて、傷の汚れを落としていく。


 猫って、水に濡れると体がほっそりして、別の生き物みたいになるよね。


 しばらくすると、患者さんがケガの痛みと水浴びによるストレスで、げっそりした顏で聞いてくる。


「いつまで、水の中にいれば良いニャン……?」


 それは、ぼくにも分からない。


 傷口は、流水りゅうすいで洗えたから良いんだけど。


 打撲だぼくは、いつまで冷やせば良いんだろう?


 もう一度、「走査そうさ」したら、教えてくれないかな?


 そんなことを考えながら、とりあえず、「走査そうさ」してみる。


打撲だぼく処置しょち冷却れいきゃく時間は20分程度が目安めやす。痛みとれが引くまで、2~3日はり返す』


 なんだ、ちゃんと分かりやすく説明してくれるんじゃないか。


 最初から、そうしてくれれば良かったのに。


 でも、20分と言われても、時計がないから時間も分からない。

 

 れているってことは、ぶつけた部分が炎症えんしょうを起こしているってことだよな。


 ってことは、炎症えんしょう作用のある薬草が効くってことかな?


 ヨモギは、体を温める薬草だから、炎症えんしょうには逆効果ぎゃくこうか


 確か、アロエに炎症えんしょう作用があったはず。


 ちょうど河原かわらえていた、アロエに向かって「走査そうさ


対象たいしょう:ツルボラン亜科アロエ属アロエ』


薬効やっこう抗炎症こうえんしょう作用、血液の循環じゅんかん作用、殺菌さっきん作用、保湿ほしつ作用、かゆみ止め、火傷やけど、切り傷、り傷、虫刺むしさされ、健胃けんい便秘べんぴ


禁忌事項きんきじこう:熱を冷ます薬草の為、胃腸が冷えやすい人、妊婦にんぷ服用ふくよう禁忌ダメゼッタイ


 よし! これだっ!

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