第80話 滑落事故

 ぼく達家族3匹がハイキング気分で、山のふもと沿って歩いていると。


 どこからともなく、か細い猫の鳴き声が聞こえてきた。


「痛いニャン、痛いニャン、死にたくないニャン……」


 痛みに苦しんでいる猫が、この近くにいる!


「ミャ!」


 ぼくは、お父さんとお母さんに「苦しんでいる猫を探して欲しい!」と、頼んだ。


「もちろん、探すニャーッ!」


「みんなで、手分けして探しましょうニャッ!」


 ぼく達は鳴き声をたよりに、苦しんでいる猫を探し始める。


 しばらく、行ったり来たりをり返して、あちこち探し回った。


 そうしてようやく、谷底たにぞこで倒れている猫を見つけた。


 土の上をゴロゴロ転がったみたいに、全身の毛が土で汚れている。


 ぼくは大急ぎで、倒れている猫にけ寄る。


「ミャッ?」


 大丈夫ですかっ?


「なんで、こんなところに仔猫がいるニャン……? もう、仔猫でもなんでも良いニャン……痛いニャン、助けて欲しいニャン……」


 ぐったりと横たわった猫は、目に涙をためて、ぼくに助けを求めた。


「ミャ!」


 安心して下さい、ぼくはお医者さんです!


 どうにかして、あなたを助けてみせますっ!


 よし! さっそく、倒れている猫を「走査そうさ


 猫に向かって手をかざして、意識を集中すると、頭の中に言葉が現れる。


対象たいしょう:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』


症状しょうじょう高所転落こうしょてんらくによる、全身打撲ぜんしんだぼく。全身にり傷多数、および、細菌感染症さいきんかんせんしょう


打撲だぼく処置しょち患者かんじゃ安静あんせいにする。患部かんぶテープを巻いて固定テーピング患部かんぶ冷却れいきゃく


り傷の処置しょち:傷口を流水りゅうすい洗浄せんじょう後、直接圧迫あっぱくにより止血。傷口を、創傷被覆材そうしょうひふくざいおおって保護ほご抗菌薬こうきんやく投与とうよ


 うわっ、専門的な処置しょちの仕方が、ずらずら出てきた。


 専門用語だらけで、ところどころ分からないんだけど……。


 でも、何度も読み返すうちに、なんとなく分かって来たぞ。 


 この猫はたぶん、山に登って、足をすべらせて落ちたんだ。


 転がり落ちる時に、体をあちこちぶつけて、全身にケガをってしまったんだ。


 骨折こっせつをしていないのだけは、不幸中のさいわいだな。


 しかし、困った……。


 全身打撲ぜんしんだぼく


 患部かんぶ冷却れいきゃく


 全身にり傷。


 傷口を流水りゅうすい洗浄せんじょう


 自然の中で冷やす手段なんて、川くらいしかないし。


 流水りゅうすいも、川しかない。


 ひょっとしてこれは、猫を川へ入れるしかないんじゃないか……? 




 ―――――――――――――――――


創傷被覆材そうしょうひふくざいとは?】


 簡単に説明すると、絆創膏ばんそうこうのこと。

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