第78話 恐怖の山脈にて

 草原の猫の縄張なわばりでは、ぼくの活躍かつやく機会きかいはなかった。


 やっぱり、平和が一番だよね。


 何日か、ゆっくりと寝て過ごし、旅の疲れがえた頃、ぼく達は再び旅へ出ることにした。


 特に何もなかったけど、別れの挨拶あいさつくらいはしていこう。


 今日も猫会議ねこかいぎをしている猫達に、声をかける。 


「ミャ」


 ぼく達は、今から旅立ちます。


 短い間でしたが、お世話になりました。


 ありがとうございました、さようなら。


「ああ、もう行くのニャァ? さようなら、元気でニャァ」


 猫会議ねこかいぎに参加していた猫達もみんな、「じゃあね」と軽く挨拶あいさつしてくれた。


 今まで立ち寄った集落の猫達と比べると、ずいぶんあっさりとした別れだ。


 ここでは、何もしないで寝てただけだし、当然と言えば当然か。


 草原を縄張なわばりにする猫達と別れ、ぼく達は再び旅立った。



 それから数日後、目的の山のふもと辿たどいた。


 見上げると、草木がいっぱいえていて、山は緑色におおわれている。


 ひとつの山というより、いくつもの山が集まって、大きく広がっているような感じだろうか。


 お父さんとお母さんが、不安げな表情で山を見上げ、ぼくに話しかけてくる。


「この山を登るニャー?」


「とっても大きな山ニャ……シロちゃんが登れるか、心配ニャ」


 ぼく達は、山登りに来たワケじゃない。


 この山に、ケガや病気で苦しんでいる猫がいるなら、話は別だけど。


 ざっと見た限り、この辺りに猫はいないようだ。


 だったら、危険をおかしてまで、山に登る必要はない。


「ミャ」 


 ぼくが「登らない」と答えると、ふたりはホッとした顏で笑う。


「登らなくて良いニャー? 良かったニャー」


「山に登って、シロちゃんがケガでもしたら、大変ニャ」 


 ぼくだって、登らなくて済むなら、登りたくない。


 ぼくは、登山家ではないからね。


 それに、お父さんとお母さんにケガして欲しくない。


 これまでもずっと、ぼくのワガママに付き合ってもらっているんだ。


 これ以上、ふたりに無理をさせたくない。


 急ぐ旅でもないし、出来る限り、安全第一あんぜんだいいちで行こう。


 山と山の間には谷があり、谷には川が流れている。


 どうしても、山の向こう側へ行かなければならない場合は、谷を抜ければ良い。

 

 ぼく達は、山には登らず、山の周りにある猫の集落しゅうらくを探すことにした。

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